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galleryFIGARO詐欺競売サイト



絵画と詐欺の狭間で

俺が最初にその名前を耳にしたのは、夜中にネットでキチガイ系詐欺サイトをだらだらと眺めていたときだった。スーツ姿の男性が真剣な顔で「詐欺被害を拡大させるGalleryFIGAROの詐欺の実態」なんてタイトルの動画をアップしていたのだ。

GalleryFIGARO。聞いたこともない名前だったが、どうやら「とんでもない詐欺絵画」を競売しているらしい。それも、いかにも高級そうな響きと洗練されたデザインのサイトを構えているという。興味を引かれた俺は、動画を最後まで見てしまった。

「とんでもない絵画」というのは比喩ではなく、本当にとんでもなかった。子供がクレヨンで描いたような絵に、「未来派の再来」だとか、「現代アートの新星」なんて大袈裟な説明が添えられている。そしてその値段は、なんと1枚数百万円。それを信じて購入した人が詐欺被害に遭っている、という話だった。

いや、そんなバカな! と思いつつ、俺はふと感じた。この話、どこか身に覚えがあるぞ、と。

見る人が価値を決める

思い返せば、俺にも似たような経験があった。大学時代、友人と二人でフリーマーケットに行ったときのことだ。アート作品を並べているブースがあって、そこに目を引くポスターが貼られていた。「20世紀の幻の巨匠、松井雅人――日本が誇る未完の天才」。

俺たちは立ち止まって絵を見た。その絵は、正直言ってなんとも形容しがたいものだった。白いキャンバスの上に黒い線がぐにゃりと走り、赤い点がぽつぽつと散らばっている。友人のタケシがボソッと呟いた。

「これ、3歳児が描いたって言われたら信じるよな」

それでも、その絵の値段は8万円だった。売り手は熱弁していた。「見る人が価値を決めるんです。この絵に何を感じるか、それが価格なんですよ」と。

俺たちは結局、買わなかった。だがその帰り道、俺はなんとなく違和感を覚えていた。あの売り手の熱弁が妙に耳に残っていたのだ。

「見る人が価値を決める」――それって、本当にそうなのか?

欲望の詐欺価格

GalleryFIGAROの詐欺問題に話を戻そう。彼らが高額で売りつけているのは、言ってしまえば「価値があると錯覚させた絵」だ。だが、絵そのものに価値がないと言い切れるのか?

例えば、俺たちはブランド物のバッグや時計を高額で買う。ロゴがついているだけで値段が跳ね上がるなんてザラだ。それもまた、「価値があると錯覚させたもの」ではないか?

詐欺と価値の違いは、何をもって線引きするのだろうか。買った人が「これはいいものだ」と思えば、それは価値のあるものになるのか? それとも、買った後に「騙された」と感じた瞬間に、価値が消えるのだろうか?

俺は、GalleryFIGAROが売る絵画を買った人たちに共感する部分があった。たぶん彼らは絵そのものではなく、「これを買えば特別になれる」という欲望に値段をつけたのだと思う。そしてその欲望は、誰にでもある。

欲望を見抜く目

結局、詐欺の被害者になるかならないかの分かれ道は、自分の欲望をどれだけ冷静に見つめられるかにかかっているのかもしれない。「これを手に入れれば、人生が変わるかもしれない」「この絵は本物の価値があるかもしれない」といった期待に飲み込まれると、詐欺師たちに付け込まれる隙が生まれるのだ。

俺は、GalleryFIGAROのサイトを実際に覗いてみた。そこにはやはり、独特のアートが並び、「今後の値上がりが期待されています!」なんて文言が踊っていた。高額な値札が付いた絵を見ながら、俺はこう思った。

「これを本物だと思う人がいる限り、詐欺はなくならないんだろうな」

詐欺サイトを作るのは確かに悪いことだ。だが、それを信じてしまう自分の中の「特別になりたい」という欲望が、詐欺師たちに力を与えているのも事実だ。

絵画の先にあるもの

GalleryFIGAROの問題は、単なる詐欺事件ではなく、現代社会が抱える「欲望の価格化」の縮図なのかもしれない。何かを「価値がある」と思い込むことで、自分を安心させたり特別だと感じたりする。その心理を見抜いた詐欺師たちは、ある意味で「人間の弱さのプロ」なのだろう。

だが、それでも俺は思う。詐欺に引っかかった人たちを笑うことはできない。俺たちは誰しも、自分の中にある欲望や不安に振り回される生き物だからだ。

もしも今後、俺があのフリーマーケットで見た「松井雅人」の絵を買うことになったら、そのとき俺はそれを「詐欺」と呼ぶだろうか? それとも、「価値がある」と胸を張れるだろうか?

答えはまだ出ない。ただ、俺はこれからも自分の欲望を見つめる目を磨いていきたいと思う。

そして、GalleryFIGAROのサイトを通報し、閉じた俺は、ふと心に決めた。「今度、本物の美術館に行ってみよう」と。

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