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基軸にある価値観
基軸にある価値観
最近、ふと「自分の基軸ってなんだろう」と考えることが増えた。基軸とは、人生の中で何度も戻ってくる考え方とか、どうしても手放せない価値観のことだ。
歳を重ねると、人は意外とブレる。いや、むしろ「ブレないこと」があるのかってくらいブレる。若い頃に信じていた「これだけは譲れない」みたいなものが、ある日気づくと「あれ? それって本当に大事だったっけ?」となることもある。例えば、昔は「とにかく自由が一番!」と思っていたのに、今では「安定って素晴らしいな」とか思ったりする。価値観の転がり方って、本当に予測不能だ。
ただ、それでも人生には「何度も戻ってくる考え方」があるような気がする。ブレながらも、何かしらの軸に引き寄せられていく感覚。それを最近、しみじみと感じるようになった。
1. 「ちょっと楽しい」が最強説
たとえば、俺は「ちょっと楽しい」が結局一番大事だと思っている。これに気づいたのは、つい先日のことだ。
週末、娘を連れて公園に行った。公園のベンチに座っていると、隣にいたおじいちゃんが突然話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、楽しそうだねぇ」
娘は遊具を登ったり降りたりしながら、たしかに楽しそうに笑っていた。俺もそれをぼんやり眺めながら、「こういうの、いいよなぁ」と思った。そのとき、おじいちゃんが続けて言った。
「人生はね、楽しいのが一番よ。楽しいと思えることをやるのが、正解」
いやいや、そんなこと分かってるし、と思った。でも、言われてみると、最近の俺は「楽しいことを優先する」ってことを忘れかけていた気がする。仕事とか、家のこととか、色々やらなきゃいけないことが増えると、「楽しさ」よりも「責任」や「義務感」にばかり目が向く。
でも、子どもを見てると分かる。彼らは「ちょっと楽しい」を見つける天才だ。公園で走り回るだけで楽しいし、水たまりを見つけるとそれだけでテンションが上がる。俺も、昔はそうだった気がする。
考えてみれば、これまでの人生で一番満足度が高かったのは、「ちょっと楽しいことを積み重ねた日」だった。仕事終わりにふらっと寄ったラーメン屋で、思いがけず美味しい一杯に出会えた日。深夜にYouTubeを見ていたら、妙にツボに入る動画を見つけてひとりで笑い転げた日。大きな成功とか、派手なイベントよりも、「ちょっと楽しい」が俺を支えてきた気がする。
だから、どんなに忙しくても「ちょっと楽しい」を無視しないこと。それが、俺の基軸のひとつなのかもしれない。
2. 「誰かの役に立ちたい」は結局本能
もうひとつ、自分の中で何度も戻ってくる価値観がある。それは「誰かの役に立ちたい」という気持ちだ。
これは、完全に後付けで気づいたことだけど、俺は昔から「誰かに喜ばれること」が好きだった。学生の頃、クラスであんまり目立つタイプじゃなかったけど、「ちょっとした気配り」で感謝されるのが嬉しかった。体育の時間に、誰よりも早くボールを片付けるとか、授業中に先生が黒板消しを探していたら、すぐに差し出すとか。そういう地味なことをして、「おっ、助かったよ」と言われるのが、なんか心地よかった。
大人になっても、それは変わらなかった。仕事で頼まれたことを、相手の期待以上に仕上げて「助かった!」と言われると、ちょっと気分が良くなる。家庭でもそうだ。娘が「パパ、お水とって!」と言うから取ってあげると、「ありがとう!」と無邪気に喜ぶ。それだけで、ちょっとした充実感がある。
でも、同時に思う。「誰かの役に立ちたい」という気持ちは、時に自分を苦しめることもある。
他人に喜ばれるために無理をすると、だんだんと疲れてくる。頼まれるがままに仕事を引き受けすぎて、気づいたら自分の時間が全然なくなっていたりする。人のために動くことが増えると、「なんで俺ばっかり……」と不満が出ることもある。
だから、「誰かの役に立ちたい」と思う気持ちは大事だけど、それをうまくコントロールすることも必要だ。全部を引き受けるんじゃなくて、「自分がやってて楽しい範囲で、誰かの役に立つ」くらいがちょうどいい。結局、役に立つこと自体が楽しいなら、それが一番いい形なんだと思う。
3. 基軸は「手応えのある生き方」
こうして考えてみると、俺の基軸にある価値観は「ちょっと楽しい」と「誰かの役に立つ」の二本柱なんだと思う。そして、それをもう少し広げると、「自分なりに手応えのある生き方をしたい」ということになる。
手応えというのは、「今日もなんとなくいい日だったな」と思える感覚だ。別に毎日が最高じゃなくてもいいし、特別な成功がなくてもいい。ただ、夜布団に入ったときに「今日もまぁ、悪くなかったな」と思えたら、それでいい。
そのためには、「ちょっと楽しい」を見つけて、「誰かの役に立つ」を適度にやる。それが、俺にとっての「ブレても戻ってくる場所」なんだと思う。
歳を重ねると、いろんな価値観が上書きされる。昔は正しいと思っていたことが、今では「そんなに大事じゃないかも」と思うこともある。でも、それでも何度も戻ってくる考え方こそが、その人にとっての「基軸」なんじゃないか。
だから、これからもたぶん俺は、ラーメンを食べて「ちょっと楽しい」と思い、誰かに「ありがとう」と言われてちょっと嬉しくなる。そして夜、布団に入って「今日もまぁ、悪くなかったな」と思いながら寝るんだろう。
たぶん、それで十分なんだと思う。