鉄の蝙蝠
バケツをひっくり返したような大雨
轟く雷鳴
私はこうもり傘をさして家路を急ぐ
雨合羽を着た男がいた
男は私に話しかけてきた
「こんにちは、すごい雨ですね」
私は戸惑いながらも「そうですね」と答えた
すると男はにやりと笑いその場を去った
私は気味悪さを感じながら再び足を動かし始めた
翌朝
ニュースで、家の近くで殺人事件があったと報じられていた
私は犯人の顔を見て戦慄した
雨合羽のあの男だった
男は、話しかけたのに無視をしたので逆上し、暴行に及んだあとに被害者の持っていた傘で刺し貫ける場所をひとつ残らず刺していったという
「僕を認識してほしかった。僕は皆の事をちゃんと見て、声を聞いているのに」
男はこう供述したらしい
大雨の中、ひっそりと獲物を狙った鉄の蝙蝠は、確かにそこにいた…