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超短編台本「アリバイ」

  須藤健一(夫)
 須藤浩子(妻)
 警察

 警察 須藤健一さんと
 健一 はい
 警察 妻の浩子さん
 浩子 はい
 警察 御足労いただきありがとうございます。今日は例の事件についてお伺いしたいことがありまして
 健一 私たちを疑ってるのですか?
 警察 何かやましい事でも?
 健一 いや、そんなことはないが
 浩子 あなた
 警察 いくつか質問させてください。まず一つ。事件当日の2月5日、お二人はどちらに
 健一 私は仕事でしたので、会社にいました。
 浩子 私は夫を送ってから、午前中のうちに買い出しに
 警察 買い出しは、お近くのスーパー日の出ですか?
 浩子 ええ。だいたいいつも日の出で済ませています。
 警察 買い出しの後、そのまま家に帰られましたか?
 浩子 あの日は……そうだ、あの日はちょうど消耗品のストックが切れていたので、ドラッグストアにも行きました
 健一 そんなことはどうでもいいだろ
 警察 いえ、小さなことでも何かのヒントになるかもしれませんから
 健一 いちいち一個ずつ聞いていたら日が暮れてしまうよ
 警察 それが私たちの仕事なのです
 健一 ふん
 警察 事件発生の時間、17時47分はどこで何をされていましたか
 健一 その時間は会議中だな。17時に終わる予定だったが、長引いてね
 警察 普段お仕事が終わるのは何時頃ですか
 健一 表向きは18時となっているが、帰れた試しはないよ
 浩子 そうですね。帰宅は21時頃が多いですから。
 警察 奥様は?
 浩子 そのころは……正確な時間はわからないですけれど、家にいました。いつもと同じように、ご飯を炊いて、食事の支度を始めた頃だと思います
 警察 何か、証明できるものはありますか?
 健一 おい
 浩子 いいの。家には私しかいないので証明してくれる人はいませんが、確かその日はテレビをつけていました。銀座かどこかのチョコレート店の特集が流れていたと思います。
 警察 なるほど。バレンタインも近いですからね。
 浩子 はい
 健一 こんな質問で何かヒントが得られるんですか
 警察 わかりません。わかりませんが、あなた方が犯人ではないことが証明できるかもしれません
 健一 それじゃ、現段階では犯人の可能性があると言ってるようなもんじゃないか
 警察 まあ、そういうことになります
 浩子 そんな
 健一 会社や家にいたのに事件を起こすなんて無理に決まってるだろう
 警察 それが無理かどうかを調べるのも、私たちの仕事です
 浩子 ……
 警察 そんなに暗い顔をなさらないでください。何も初めからあなたがたを逮捕しようなんて考えちゃいません。あくまでお話を伺っているだけですから。
 健一 熊谷くんは、どんな状況なんですか
 警察 ええ、熊谷さんは頭を強く殴られたようです。一時は意識不明でしたが、現在は落ち着いてきているようです。今日は話もできるようになったと
 健一 そうか
 警察 ただ気になることがありまして
 浩子 なんです?
 警察 事件当日、誰かと会う約束を入れていたようなんですが、それについて一切話してくれないようなんです
 健一 取引先とか、そういうのじゃないのか
 警察 それが、その日はわざわざ半休を取って早く帰ったのだとかで。仕事以外の約束だったようでして。心当たりはありませんか?
 健一 彼は一緒に暮らしている家族はいないし、浮いた話の一つも聞いたことがない。女じゃないだろうな。
 浩子 私は、夫の会社の旅行で少しお話ししたことがある程度の方なので、なんとも……
 警察 そうですか。わざわざお時間いただきありがとうございました
 健一 いや。早く犯人が捕まることを願っているよ。

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