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"中の人"が語る八神庵の人物像 〜開発スタッフ編〜

はじめに

社会人になってから、好きなキャラクター・作品そのものだけでなく、制作に関わる方(いわゆる「中の人」)のお話に興味を持つようになりました。
社会に出て世の中の仕組みを知ってから、作品を見る視点がだんだんと消費者側から制作者側へ移ってきたと言いますか。「このXXには制作者のどんな意図が込められているんだろう」とか「ここのXXはきっと大変だったんだろうな」とか、ついそんな事を考えてしまうのです。
また、中の人のお話を聞くことで、自分では気づかなかった世界が見えたり、キャラクターや作品に対する解釈がより一層深まったりするので、「創造主」の言葉ほど有り難いものはない、と感じることも多々あります(笑)

そんなわけで八神庵についても同様に、中の人のお話を調べてみました。

このテーマは下記2本立てでお送りしたいと思います。

  1. 開発スタッフ編

  2. 声優さん編

手元にある資料や情報をベースにしているので、偏りがあったり網羅性が無いこと予めご容赦ください: (_;´д`;) :_

八神庵好きの皆さんの一助になれば幸いです。



八神庵ができるまで:平木さん

'94から'96までフロントデザイナーを担当していた平木さんは八神庵の生みの親の様な存在。どんな思いで八神庵を作ったのか、下記インタビュー記事に書かれていました。(キャラクターの名前が伏せられていたので堂々とリンクを貼って良いか迷いましたが問題あればご指摘ください)

見た目クールだけど闘い始めるとワイルド
「形としてライバルって決まった時点でほぼ、そのキャラは勝ち目が見える」と、特に大きなプレッシャーを感じることもなかったという平木さん。

「具体的にどうかっこよくすればいいかは
生みの苦しみはあったよ。
動きと性格をどうするかという点でね。

草薙 ○が主人公で炎使い、ある側面では熱血だから
その反対の青くてクールで来るだろうって
開発チームは勝手に思ってたんだ。
設定はテンプレで良いと思ったんだけど
中身はなにかしてやろうと思って。

あえて凶暴なやつにしてみた。
まさか爪で引っ掻くとか、
野獣的な動きをするとは思わないじゃない。
見た目クールだけど
闘い始めるとワイルド
ってのを狙いました。」

庵の、クールな見た目に反する荒々しい技の数々は狙って作り出されたものだったのですね。そしてあのマグロ🐟キック(しゃがみD)も忘れられないものになりました(笑)

「予想外、想定外」の物を「想定以上のクオリティ」で出す

「欲しい物がこれ」って解っているから
それをキープしつつ
「予想外、想定外」の物を
「想定以上のクオリティ」で出す

という思いで〇神 庵を作ったんだ。

平木さんのこの言葉、世の中のクリエイターさんが常日頃意識している事なんだろうなと思います。
ファンが欲しいものを理解したうえで、想定以上のクオリティを出す…言うのは簡単ですけど、実行するのは難しいですよね。数式のように明確な答えがあるわけでもないですし。
でもそれをさらっと(?)やり遂げた平木さん、ほんとすごすぎる。敬服するばかりです。


ちなみに、前編の方で庵のモーションについてちらっとお話しされているのですが、

○神○の「近距離強パンチ」でアッパーを作った時に
攻撃判定がある「拳が当たった瞬間」の絵と、
その次の「拳が相手の鳩尾にめり込む」絵を描いて、
空振りした時は最速の1フレームしか表示しないけど、
ヒットした時はそれぞれにヒットストップをかけて
「当たった拳が鳩尾にめり込む」挙動が
わずかに目に残るようにしてみた。

ROUND 3:平木雄一郎さん 前編
https://game.capcom.com/cfn/sfv/column/112604

このお話聞くまで全っ然気づきませんでした…(土下座)
インタビューに感謝です(-人-;)(;-人-)


八神庵に対する思い

開発スタッフの八神庵に対する思いは、そのままのタイトルでこちらのCDブックレットに掲載されています。スタッフさんのお名前は不明ですがご紹介させていただきます。

 「八神 庵」、KOFシリーズの主人公「草薙 京」の宿命のライバルという設定で彼は誕生しました。
 今までの格闘ゲームにはなかったデザインとキャラクター性が受け入れられたようで、大変嬉しく思っています。
 あまり設定などで遊べない主人公より、「八神 庵」の様なライバルキャラの方が扱いやすく色々楽しめました。
 よく色々な方面から彼の過去や秘密を求められるのですが、我々としては”全てが謎”であることを彼の魅力とし、それを守っていきたかった為、極力公表しませんでした。
 その代わりという訳ではありませんが、ストーリー上ではかなり過酷な運命を彼に背負わせています。
 設定だけでなく、その時彼がどういう風に動き、物語を飾るのかという所にも魅力を感じてほしかったのです。
 とかなんとか言っておきながら、「KOF'97」のラストで彼を消息不明にしてしまった訳ですが、この時ばかりは制作側の勝手な都合によりボロボロになっていった彼に対して「少しの間休ませよう、お疲れさん」という思いもあった訳です。
 そんな彼が、もし再び「THE KING OF FIGHTERS」のステージに立った時は、暖かく迎えてやってください。

SNKキャラクターズ・サウンズ・コレクション Vol.11 八神庵「八神庵に対する思い…」

”全てが謎”であることを彼の魅力とし」とある通り、彼は本当に謎だらけで当時の私には思い至らない部分が多々ありました。

ですが、「その時彼がどういう風に動き、物語を飾るのかという所にも魅力を感じてほしかった」というメッセージの通り、設定はわからなくとも言動を見ればどのような人物であるか、ある程度想像することができるわけですよね。
恥ずかしながら大人になった今、ようやく、少しずつではありますが、その事がわかるようになりました。そしてそれを忘れないよう、こうしてnoteにメモしているわけです(; ◜ ᵕ◝)

ところで、
スタッフさんの言う「扱いやすく色々楽しめました」というのは、ミスXとかネオジオDJステーションの庵の事ですかね(笑)
やっぱりスタッフさん達、楽しんでたんだなぁ🤣庵も大変だよな(定期)


本当の庵像

今は無きゲーム雑誌「ネオジオフリーク」で開発スタッフが語るコーナーがあり、そこで「本当の庵像」が語られていました。もうこれが全てといっても過言ではないかもしれません(笑)

(略)みなさんは八神庵にどんなイメージをお持ちでしょうか。マンガやドラマなどから、ワルだけど、どこかによいところがあるのではないか、とか、いつも1人でいるけど、実は寂しがりやなのでは、とかお思いではないでしょうか。
 甘い!とんでもない!
 はっきり言ってワルです悪ではないですが、とことんワルです、エグイんです。こいつには一滴の涙もありません。ゲームの性質上、チームを組んだりしていますが、普通ならそんなことは絶対しません。
 「京と庵はいつか仲良くなるんですか?」真吾の炎より可能性は低いです。「庵の彼女はどうなったんでしょうか?」んなもん◯✗しちゃったに決まってるじゃないですか。
 いいですか、見た目以外のきれいなイメージは捨てましょう。甘い夢を見るのはやめましょう。
 というわけで、我々の中の本当の庵像を語らせていただきました。
 あー、すっきりした!

ネオジオフリーク1999年9月号 開発者様からの一言 P.130

ネオジオDJステーション等でスタッフさん達によって面白い(?)扱いを受け、憎めないキャラクター像が確立されていた頃に、開発者様からのこの一言。シビれますね😂

先述のCDが発売されたのが1999年6月、このネオジオフリークが1999年9月発売。回答しているのは同じスタッフの方かどうかはわかりませんが(回答の仕方から別人の様な気もしますね(笑))、少なくとも同じ時期に一緒に開発していたチームメンバの方である可能性は高そうです。

「悪」ではないが、とことん「ワル」
八神庵に「どこかによいところがあるのではないか」と思わせたのは、公式で散々いじられまくった事も原因の一つな気がしますが(笑)、ひょっとすると開発スタッフさん達の中でも、八神庵に対するイメージ像が分かれていたのかもしれないなぁ、とこのメッセージを読んで思いました。

というか、八神庵にとってはもはや「良い人」だとか「悪い人」だとか、「善」や「悪」といった価値観すら関係ない事なのかもしれない、と最近は思うようになりました。

善悪の彼岸を超え、人道や倫理観などとも無縁の、傲慢とさえいえるその信念が、八神庵という人間を今の位置に立たせている。

THE KING OF FIGHTERS XII ファイターズプロファイル 八神庵

庵の彼女は庵が◯✗しちゃった?
お話から察するに歴代の彼女は皆、庵の手によって亡くなったのでしょうね…;(´◦ω◦`): 少なくとも'95で「大切なもの」に挙げられていた彼女は「庵に殺された」と当時の開発スタッフがはっきり答えています(ザ・キング・オブ・ファイターズ オロチ完結編 P.110)。

ただ、人を殺めても罪に問われること無く翌年もしれっとKOFに出場している所をみると、彼女の件は八神一族が権力(?)を使ってもみ消したのでしょうか。
先日のnoteでも書きましたが、庵が彼女を殺害してしまったのは血の暴走による事故が原因だったのではないか?と個人的に妄想しています。


「セクシー」&「シンプル」:Falcoonさん

イラストレーターのFalcoonさんがTwitterで庵像についてつぶやいていました。

初めてKOF'95のオープニングを見た時、胸元の大きく開いたシャツから見える逞しい胸筋がとても印象的でした。そして手元に炎を灯した後チラッと目線をくれる庵がなんとも妖艶で。(でも当時は京サマ一途だったのですがw)
この「セクシーさ」は全世界共通の、庵に対するイメージだった事も最近知りました。

このコメント激しく同意です。
過去、大事なものに高額なアクセサリー等を挙げ、センセーショナルな衣装を身に纏っていた彼ですが、指輪やネックレスを付けてもピアスは付けない所とか、何か彼のこだわりがありそうな気がします。
常に上質なモノに囲まれて暮らしていそう。(妄想)

本質を追いかけてシンプルに生きる姿、見習いたい。


「月」は庵の象徴の1つ:北さん

サウンドチームの北さんが、KOF14の庵チーム曲を作成した時に庵の事を少しお話ししてくれました。

やはり月は庵の象徴の1つでもありますよね。「月を見る度思い出せ」は、私も好きなセリフの一つです😊

このツイートのスレッドになっている北さんの楽曲制作時のお話を読んで、冒頭0:09〜0:15あたりの演奏はアドリブだった事も初めて知りました。あの素敵な曲はこうやって作られたのか〜🙏🏻
「月とサキソフォン」は、これまでの庵とこれからの庵を感じられる素敵な曲。リミックス版も素敵ですのでぜひ聴いてみてください🎧

話は少し逸れますが、北さんがつぶやいていた庵とベースとの出会いについて。

庵がなぜベーシストになったのか、開発スタッフさん達の間でも謎なのですね。
趣味「バンド活動」そして担当楽器がベース。ということは、少なくとも他人と音を合わせられる(協調性がある)、という事で…。
孤高に生きる彼がなぜベースという楽器を選んだのか、とても、とっても気になります。


京と庵は完全にイーブンな存在:麻中さん

サウンドディレクターの麻中さんが、KOF11の楽曲制作時における京と庵に対するイメージをちらっとお話ししてくれました。

私の中でも京と庵はあらゆる面において対等であり、対になっている存在です。
(京を好きだった当時も庵が気になっていましたし、庵を好きな今も京の事が気になっています(笑))

この京&庵チームのBGMも大好きです。(﹡´◡`﹡)

他、KOF'95での庵初登場時の印象も。

はい、当時「燃えたろ」に翻弄されまくっていたファンの一人です\(^o^)/
ライバルキャラとして、初登場時から主人公に負けない人気を誇っていますよね。

足のベルトは当時私もびっくりしました(笑)。そしてこれが「ボンデージパンツ」という名の、実在するファッションだと知った時は更にびっくりしました。


感動したドットキャラ:黒木さん

庵の人物像、という視点からはちょっと外れますが、アートディレクターを務める黒木さんが感動したドットキャラの一人に庵を挙げていました。

庵のドット絵といえば、前ダッシュした時に前髪がちび◯る子ちゃんの花輪くんみたいになるのが私は好きでした(笑)
個人的には、歴代のドット絵の中だとKOF13が一番好きです(*´∀`)

KOF14制作時のモデリングの話も参考になりました。

あの独自の構えを再現するためにデフォルメが必要だったんですね。
モーションが入っていない状態はしゃもじみたいな体型、とのことですが一体どんな感じなのでしょう。動いている庵もカッコイイですが、動いていない庵もカッコイイに違いない!(笑)


「赤と黒」のカラーイメージ:ナカタトモヒロさん

過去noteで何度かご紹介しましたが、ナカタトモヒロさんがキャラクターデザインに関するコメントで庵のカラーイメージを語っています。

庵といえば初代衣装の「赤と黒」のカラーイメージがとても強いので今作はそれを踏襲しデザインしました。

オロチ編の後、何度か衣装チェンジしている京に対し、庵は約10年もの間同じデザインでした。その後歴代のどの衣装にも赤・黒が使われていましたから、ファンの間でもこの色のイメージがすっかり定着したのでしょうね。

一般的な話ではありますが、赤・黒を使用する洋服が与える印象は下記の様に言われています。

黒:気品や上品さ、強い意志などを感じさせる。クールで知的なイメージ・自立した印象を与えやすい。
赤:自発性やリーダーシップを表す。人の感情を高ぶらせる効果もある。

米国の大統領が演説でよく赤いネクタイをつけていますよね。
この様にもし身につける色に何かしら意味をもたせているとしたら、庵はまさにイメージ通りだなぁと思いました。


【番外編】「これ作った人天才じゃないかな」:桜井さん

スマブラの生みの親、桜井政博さんも大絶賛。

櫻井さん:八神庵。元々は草薙京のライバル的な立場で出てきたんですけども、当時このキャラクターが出た時にこの格好とその言動で「これ作った人天才じゃないかな!?」って思ったりもしました。

桜井さんに「天才」と言わしめた八神庵の生みの親とは、平木さんのことでしょうか。
初登場時からファンの心を掴んで離さず、25年経った今も性別や国籍を超えてこんなにも愛されるキャラクターを生み出して…本当にすごいと思います。


* * *

第一弾は一旦ここまで。

今年はKOFの新作がリリースされますし、ひょっとするとスタッフさんから八神庵に関するお話が聞けるかもしれません。新しい情報を見つけ次第更新していきたいと思います(`・ω・´)ゞ

第二弾はこちら🙋‍♀️



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