騒がしい輪郭 トークゲスト 松原元(建築家)

 この度、京都下鴨で私がオーナーを務めるオルタナティブスペースyugeにて、個展「騒がしい輪郭」を開催した。
 会期は12/8(日)から12/15(日)となっていて、その中で四回にわたってそれぞれ違うゲストを呼んで私と共にトークイベントをさせてもらうことになっている。
 それにあたってアーカイブの意味も込め、今回はその内容を書き起こしてnoteにまとめることにした。もし展示には来たけれどトークイベントに参加することができなかった方や、参加いただいた方で内容を振り返りたいなどという方がいたら是非読んでいただけると幸いだ。

 その他のトークイベント
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 Vol.3 ゲスト 九月(芸人)

 12/8(日) 17:00より
   トークゲスト:松原 元(建築家)
    ※ コ…コニシムツキ 元…松原元

01.挨拶

コ:よろしくお願いします。

元:よろしくお願いします。

コ:今回の展示の空間設計をお願いした元(はじめ)さんですが、最初からちょっと展示と関係ない話から入っていいですか。

元:はい。

コ:すごく運命的な出会いでしたよね、僕ら。

元:まあそうですよね。

コ:このyugeの向かいのパン屋さんの上に下宿していたらしくて、一回だけ展示を見に来てくれたことがあったんですよね。

元:そうそう

コ:その一年後くらいにKG+のインストールの手伝いで偶然一緒になって、現場ででっかい合板を二人で運びながら、こう「初めまして〜」って。「どこ住んでるんですか?」「下鴨の辺りです」「ぼくもそのへん住んでました」「そうなんですね。ぼくその辺でyugeって場所をやっていて」「あ、展示言ったことあります!」「あ!顔見たことあります!」って

元:いやびっくりしましたね。

コ:その時にちょうど元さんがギャラリーメイン紅たえこさんの写真展の空間設計を担当していたので、それを見に行って、それがとてもいい空間作りだったので、今回ぼくが個展をすることにあたって是非お願いしようという流れで今に至りますね。

元:そうでしたね。

コ:この展示に向けて元さんとは打ち合わせみたいなことしている中で、結構展示と関係ない話もしたと思うんですけど

元:そうですね。基本関係ない話でしたね。

コ:その中で元さんが書いた論文の話を聞いて、「ああ、この人に頼んで正解だった」と確信しました。

元:ああ、あの熊本のやつですね。

コ:そうですそうです。

元:熊本の被災地にある、600世帯が住む仮設住宅街についてのちょっとかたい研究テーマだったんですけど、

コ:少し身構えるテーマではありますね。

元:でも調査方法で面白いものにもできるかなと思って。大きな団地のすべての玄関とベランダを一日三回ずつ写真で撮り続けて、日々どんな変化があるのかっていうのを調べていました。植木鉢が動いているとか、洗濯物が干されているとか、自転車がこの家からあの家に移動しているとか、そういった変化から研究を進めて結論を出したら、教授は「それは何の意味があんねん」って返されてしまった。努力が水の泡でしたね。

コ:その研究の話の中でも嬉々として話してくれていたのが家の表にある植木鉢の話で、世帯数が多い家は植木鉢の数も多く、世帯数が少ないところは植木鉢も少ないと思いきや、実際はその逆で世帯数が多い家は植木鉢は少なくて、一人暮らしの家ほど植木鉢が多いんだとわかったと

元:そうそう、そうなんですよ

コ:大発見みたいな話し方で教えてくれたんですけど、まあ確かに「それがわかって何の意味があんねん」って教授もいうよなと。でもそういう「しょうもない」と言えてしまうことを面白いと思ってやれる人ならきっとこの展示を一緒に作っていけるなと確信したんです。

元:そうですね。しょうもないことだと、砂利道とコンクリートの道の境界線上って砂利がコンクリのほうに飛び散ってるですよね。人が歩くことで。じゃあこれって砂利の散り方を観察したら人間の歩いた経路とかがわかるんじゃないかと。それを教授に「僕は砂利を観察したいです」って熱弁したら「まじでやめとけ」って言われました。

コ:でしょうね(笑)
  でもその研究、見てみたいですね。

元:そうですよね。僕自身に結構そういう気持ち悪いところはあって、そういう面白みを見出せるぼくだから、コニシ君の作品の面白みを正確に見出せたとも言えるかもしれないですね。

コ:そうですね。

02.会話採集について

コ:今回製作するにあたって新しく会話採集をするにあたって、元さんにも一緒に会話収集をしてもらったんですけど、やってみてどうでしたか。

元:個人的にはさっき話したような研究をしていた時のようなワクワク感を思い出しましたね。研究の時こそ事前に連絡を入れてから撮影とかさせてもらってたんですけど、今回に至ってはね、

コ:盗聴に等しいですからね。

元:そうなんですよ(笑)
  勝手に透明人間になってメモを取っていく感覚は面白かったですね。

コ:結構楽しいんですよね。
  きっと会場の皆さんも電車の中で隣の人の会話をつい聞いちゃって、心の中でつっこんだりする経験は絶対あると思うし、ああいう行為を突き詰めた感じですよね。ただ今回は展示している会話劇の作品に使用する材料を集めないといけないという事もあって、結構数をかき集めようという意識があったんですけど、やはり聞こえる会話の中でも外国語であったり相槌だけであったり、作品に使えるようなものばかりではないんですよね。

元:そうでしたね。僕もはじめてのことだったんで、コニシ君に頼まれた大事な仕事やと思って挑んでたんですけど

コ:ただの盗み聞きですけどね(笑)

元:絶対失敗したらあかん、って気持ちでやってたんですよ(笑)
  やっぱり僕が収集したのは大阪だったので、京橋とかの酔っぱらったおじさんが多いところにいってみたり、梅田の方にいってみたり、そしたらエリアによって声のサイズも全然違うんですよね。

コ:大阪は特に差がありそうですね。

元:座って会話してる人たちを眺めていて、声のでかい人たちがいたら、極力自然な感じでついて行ったりとかしちゃいましたね。

コ:わかりますわかります(笑)

元:僕は後半はもう「これは完全に軽犯罪や」と思いながらやってましたね。
  それに普段僕はずっとイヤホンつけているんで、結構通行人の会話を聞くのは新鮮でしたね。

03.本物っぽい嘘について

コ:やっぱりどこか似たような感性を持っている実感は僕の中にあって、今展示している「至る会話シリーズ」(実際に採集した他人の会話を終着点に、それに至るまでの会話を捏造した台本形式の作品)について、「物語を読んでいくような感覚で読み進めていったのに、最後で実在した会話に行き当たって、そこには日時とその会話をしていた人たちの本来の性別とおよその年齢が書いてある。このネタバラシをくらってふと夢から覚めるような感覚に陥る」といってくださって、まさにそういうことをしたかった作品だったので、展示設計を手掛けてくださった方がしっかりと本質を理解してくれていることに感動しましたね。(画像参照)

画像1

元:それはよかったです。
  僕が一番好きだったのは「『困るわあ』に至る会話」という作品で、コニシ君が作り上げた、少し悲しくもあるけどクスリとくるような世界に徐々に没頭していったのに、最後に事実としての現実が急に介入して来てその世界から追い出される、その寂しさがいいんですよね。

コ:ありがとうございます(笑)
  「至る会話シリーズ」はいってしまえばオチ意外は全部嘘でしかなくて、それも前提で、鑑賞者は物語を読むような感覚で進んでいくと思うです。でもそこに現実が最後に入ることでそれが壊される。こういったことって結構他のことにも多くあるような気がして、本物っぽい嘘って思っている以上に世の中にたくさんありふれていて、僕らが現実だと思い込んでいるだけなんじゃないか、みたいなことはよく思うんですよ。

元:よくモノマネについていってますよね。

コ:そうですね。モノマネっていうのは、現実が前提としてあって成立するじゃないですか。例えば森進一のモノマネをするとする。それは森進一がいないと成立しないもので、だけどそのモノマネが現実と瓜二つなところまで来てしまうと、もはや怖いじゃないですか。

元:笑えないですね。

コ:だから森進一が前提にあって、一見森進一を目指すようなものに見えるけど、実際は森進一にたどり着いてしまうと破綻する。つまり現実Aから生まれた虚実Aは、現実A’を目指すのではなくて現実Bを目指すようになるんですよ。

元:ハリウッドザコシショウのモノマネとかはそれの究極系な気がしますね。似ている似ていないとかもはやどうでも良くて、彼の芸をみたいっていう状態になっている。

コ:そうなんですよね。案外みんな”リアル”を求めているというよりも”リアリティ”を求めているような気がしますね。本物よりも本物っぽさというか。大げさにいえば、そんなに本物の現実自体には実はそんな興味はないのかもしれないなと思うこともあります。

04.展示会場の空間づくりについて

元:不気味の谷の話とか以前しましたよね。あれすごく面白かったです。

コ:そうでしたね。CGでも物語でも現実を描こうとして、現実に寄せれば寄せるほど現実の不安定さが際立って見えてくるというか、現実って思っているより整頓されていないんですよね。

元:コニシ君はこういう話が好きで、嘘とか現実とか虚無とかいったワードがよく出てくるんですよね。
  なのでそのあたり意識して今回の展示空間を作ってりしたんですよ。

コ:確かに元さんから見せて頂いた展示空間のイメージ図に「空洞」ワードが出ていたことを覚えています。きっと僕が「嘘のハリボテが現実を作っているんじゃないか」っていう話をしていたからだと思うんですけども。

元:そうですね。そろそろ説明をしておくと、この展示空間の入り口にコニシ君が録音した街の雑踏の音声が流れているんですよね。yugeの外から漏れてくる音とも混ざりながら。なのでこの縦長の空間の奥へ進みに連れて、まずyugeの外に日常があって、yugeの中でコニシ君による街の音があって、中には作品があって、その一番奥には実際にコニシ君によるパフォーマンスが行われるという。濃淡を意識した作りになっています。
  先ほどパフォーマンス終わりにみなさんが座っていた椅子の位置にマスキングテープでその輪郭を残しておいたんですけど、それもパフォーマンスっていうのは演者と観客の関係がないと成立しないものなので、お客さんがいた形跡を象っておきたかったんです。(画像参照)
  僕としてはコニシ君の作品のノイズにならないように、そのコニシ君との会話の中で見えた「空洞」っていうテーマを添えるようにしていましたね。

画像2

コ:そうですよね。什器もコンクリのブロックとベニヤに角材、あとはマスキングテープっていう、すごくシンプルでスタンダードな道具や資材を使っていますよね。

元:そうなんです。やっぱりコニシ君の作品が緻密で繊細なものなので、僕が空間をうめすぎないようにっていうのは意識しまていましたね。

コ:プロジェクターをどう配置するかは結構悩みましたよね。

元:結果投影する映像が、このパフォーマンスをする場所に対して鏡写しになっているような配置にしましたね。これも実際にパフォーマンスをしていた現実に対する虚像として真逆の向きに投影されているのが面白いかなと。

コ:この投影されている什器も真ん中にあることで外からの光を少し遮って、yugeの奥へ進むほど少し仄暗くなっていくのもポイントですよね。

元:そうですね、奥へ進むほど深く潜っていくような感じになったかなと思います。

05.パフォーマンスについて

コ:パフォーマンス作品(聞き取った会話をコラージュし架空の会話を作った「会話のための会話による会話」というタイトルの会話劇形式のもの)は、実際にやっているところを見るのは元さんも今日がはじめてだったと思うんですけど、どうでしたか。やっぱり自分が採集して来た会話が作中で出て来たら「あ!それ俺のやつ!」ってなったりしますか(笑)

元:なりますなります、むちゃくちゃなりましたよ(笑)

コ:「今走ってるの俺の子供やねん!」みたいなね(笑)

元:なんだかカメオ出演したみたいな、こそばゆい嬉しさはありましたね。

コ:でもあの作品は作っている途中で結構詰まったりもしていて、途中で元さんに相談したりもしましたね。そのおかげで「そもそも会話を並び替えた時点で本来の会話が持っていた意味は無くなっているのだから、意味があるように見せかけていた意味のない会話が、どんどん本来の意味がない状態へ崩壊していくようにしよう」と方向性を定めることができました。

元:そうですね。みている方々は序盤は笑いが起きていましたけど、後半になるに連れてどんどん置いていかれて困惑していく様子が見れてよかったですね。

コ:そうでしたね(笑)

元:やっぱりパフォーマンスとかを見る時って何か意図があることを前提にして見ているから、その目の前の様子から意味をさがそうとしちゃうんですけど、今回の作品はそれを全て無視して意味のない会話が続いていくという。

コ:確かに意味を理解しようとするというか、多くの創作物を目の前にした時に「なんの話なんだろうか」「どういう関係性なんだろうか」とか物語を探してしまうっていう習性は、これだけ映画や小説に触れている人が多いと反射神経レベルで僕らの中で染み付いてしまっているのかもしれないですね。

06.会話から見えてくる輪郭

元:僕らが今回聞き取った会話って、僕らが面白い会話を探しながら聞き取ってるから、それが実際に発していた内容とは違って来ている可能性もありますよね。

コ:そうですね。今回パフォーマンス作品にも使われていた「ミッツラン」や「フラッフィー」って調べてもよくわからない単語だったりして、もう聞き取っている段階で現実から離れていっているのかもしれないですね。
  東側にある作品(聞き取った会話に考察を書き込んでいく「騒がしい輪郭シリーズ」)とかもそうで、書きこんていくことで、その会話をしている人たちの人間像を突き止めていっているように見せかけて、おそらく実際の事実からどんどん乖離していってる可能性の方が高いんですよね。

元:この作品はやっぱり会話をしている人たちのことを知っていくというよりも、この考察をしているコニシ君自身の人格も強く見えているような気もしますね。

コ:確かに、この作品を見てるとコニシ君に説教されているような気分になるっていっていましたね(笑)

元:そうなんです(笑)
  でもこれの会話に対してコニシ君が書いているなという実感というか、こういうことを考えてこういう言葉を書いているコニシ君自身の輪郭を辿っていくことにもなる。そんな展示になっていると思います。

コ:おお、なんだかうまく着地したような空気になりましたし、このあたりで今回のトークイベントは閉めて置きましょうか(笑)

元:なんか終了の合図のベルみたいな、チーンってならすやつ欲しいですね。

コ:明日、買いにいきましょう。

終了

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