風力発電事業計画が相次ぐ東北で、宮城の「色麻町と加美町にまたがる八森山の周辺では、再生可能エネルギーを手掛ける東京の企業、グリーンパワーインベストメントが発電用の風車を15基から20基ほど建てる計画」に対し、色麻町長が今年1月に知事に「水を大事にしたいということで。今回のこの場所についても水源涵養ということでもありますし、(事業者には)考え直してほしい、撤回してほしい」と伝える様子は報じられていたが、この結論に至った背景を掘り下げるメディアは無い。
同町の議会の議事録を読むと、にわかに信じられない出来事があったことが分かる。同議会では地元の反対運動関係者から事業計画撤回の請願を受け、特別委員会を設けて内容を精査したところ、明らかに事実に反する事柄が書かれていたにも関わらず、異議や取り下げを唱える側を賛成の側が上回った。事実に反する事柄は概ね、福島の田村町の風車夜間停止、三重の青山高原の土砂崩れ、環境省による「疫学」調査の三点。以下は「日程第7 請願第1号 (仮称)ウィンドファーム八森山事業計画の白紙撤回を求める請願」審議で、住民の利益を守るために科学を尊重する姿勢を貫いた複数の議員による発言の引用。
20ページより抜粋:
21-26ページより抜粋:
結局、議会でも委員会と同様に請願が採択されることとなったが、良識のある色麻町の議員が身を持って示してくれたのは「ファクトチェック」の重要性。基本として、関係する自治体や行政機関に直接問い合わせたり、現地に足を運んだりして事実かどうかを調べなければ、議論の前提に立てないということ。少なくとも「請願書に書かれている風力発電施設に関わる健康被害の疫学調査、これは存在しない」「そればかりか、環境省で実際に行われた研究の結論とは別に、全く真逆の結論を、言いにくいんですが、誠に言いにくいんですが、勝手につくり出して、その結論を基に地域住民の方の睡眠障害を算出」というように、偽情報や陰謀論の拡散者の常習手段である「藁人形論法」をあぶり出すことは出来た。
ちなみに、その調査結果には「4.委員の指摘及び提言」で「疫学調査の回収率が低いのと、曝露評価がはっきりしないので、結論が説得力のあるものとなっていないのが残念である。インタビューなどアンケートと合わせた情報収集の方法も検討すべきであった。また、疫学調査としては、医学的なデータを含めた解析も必要ではないか」などとある。そういった評価を請願の「全く真逆の結論」は無視している。意図的に無視しなければ、「睡眠障害を算出」など出来ない。端から結論ありきで、「科学」ではなくて「反科学」そのもの。暴論。
風力発電など再エネの反対運動による事実の捏造や歪曲を報道機関が触れなくても、最近は議事録や動画等の公開で可視化され、各地で顕在化している。とくに地域住民にとっては、知らされるべきはずのことが知らされないという「知る権利」の侵害でもある。このように少しでも暴くことで、日本で再エネの普及がなかなか進まない原因も見えてくる。手間はかかるが、それぞれの立場から確認作業をおこなわなければ、社会は正常に機能しないし、民主主義を葬り去ることになる。先進国のはずの日本の「報道の自由度」は今も低い。
参考:
宮城・八森山周辺での風力発電計画 色麻町長が宮城県に反対するよう要望 1/26 (木)
https://www.khb-tv.co.jp/news/14824542
(仮称)ウィンドファーム八森山風力発電事業計画に関する要望書
令和5年1月26日 色麻町
https://www.pref.miyagi.jp/documents/40356/4_wfhachimoriyama_shikamacho_youbou.pdf
令和5年色麻町議会定例会1月会議会議録(第1号)
https://www.town.shikama.miyagi.jp/material/files/group/15/gikaiR50105.pdf
風力発電等による低周波音・騒音の長期健康影響に関する疫学研究
平成27年度_環境研究総合推進費終了成果報告書(5-1307)
https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/syuryo_report/h27/pdf/5-1307.pdf
風力発電等による低周波音・騒音の長期健康影響に関する疫学研究_事後評価結果
https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai_hyouka/h28/pdf/5-1307.pdf
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