宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った(東京ステーションギャラリー)
東京ステーションギャラリーで開催中の「宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」（2025/1/25-2025/3/16）を見てきた。開催前からこれは楽しそう、と思っていたが、予想以上に楽しくて大満足。
会場内は写真全面禁止。いさぎよく、携帯はバッグにしまってひたすらじっと作品と向き合う。ディテールまで面白くて、とにかくじっと見てしまう。大体の作品が、布の上に、布で作った対象物をアップリケしてあるのだが、布だけでなく、糸とか紐とか、レースとか網とか、時には陶器や木のビーズとかスパンコールなどが留めつけられている作品もある。キャプションに書いてある素材を確認し、その素材が作品のどの部分に使われているか、改めて見直したりもする。
宮脇綾子（1905-1995)は若いころに美術の道を志したこともあったが、家庭の事情等で一旦断念、愛知県の洋画家宮脇晴と結婚し、第2次世界大戦が終わった後（つまり40代から）、好きな縫物の技術を活かして、アップリケ制作を始めたらしい。姑の教えもあり、古いものを捨てずに取っておく習性があり、そのため、膨大な端切れのコレクションを持ち、それらが作品制作に反映されている。
展覧会の最後のコーナーに「縞魚型文様集」というのと「木綿縞乾柿型集」というのがあり、布地見本のように、ありとあらゆる縞や格子の端切れが、魚や干し柿の形のアップリケとしてずらっと並べられていて、息を呑む壮観なのであった。縞や格子やプリントの様々な布の美しさと、それらを造形に活かし、実物に肉薄する写実性を持った作品が作り上げられていることにひたすら感嘆する。
どんなものでもアップリケの素材になる、という好例として、使い古しのコーヒーフィルター（茶色く染まったネルドリップの厚手の袋）がそのままスルメイカの造形に用いられていたり、お土産菓子を縛ってあった金色の紐を布にわたして、眼鏡と鼻と口を描いたら、孫に「あっ、おじいちゃんだ」と言われた作品とか、小さい丸い文様を重ねて貼り合わせた作品で芽キャベツを造形したり。小紋の着物生地や、南方風の更紗や、タオル、ネル、ただ「布」と書かれている素材の中にもさまざまなバリエーションが。
何十巻もある「はりえ日記」も何巻か紹介され、スケッチブックなども、着眼点の確かさとデッサン力を垣間見せてくれる。
じっとじっと観察し、それをどういう素材で表現するか、考え続けていたらしい。表現手段は違うけれど、日本画家の福田平八郎が、ずっとずっと観察し、習作を繰り返し、自分の目で見たものを、日本画で再現していたのに通じるものがあるような感じがした。
一つ一つの表現手段が本当に素晴らしく、花が、野菜が、果物が、魚介類が、こんな風に再現されるのか、と目うろこ。沢山のお客さんが入っていたが、どの人も楽しそうに見入っているのが印象的だった。
図録はちょっと高くて重たいが、平凡社から刊行されているので、展覧会に行けない人でも入手可能。
絵はがき以外、クリアファイル、ハンカチ、マグネット等、グッズも充実。過去に他施設で行われた宮脇綾子展で販売された図録やトートバッグ等の販売もあり。
宮脇綾子の観察眼が、作品の細部にまで宿っていて、それをじっと眺めることはしみじみ愉しいことであった。
#展覧会 #美術館 #美術展 #宮脇綾子 #宮脇綾子の芸術 #見た切った貼った #宮脇晴 #アップリケ #アプリケ #東京ステーションギャラリー #豊田市美術館