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『RUST RAIN FISH』と振り返りたい過去と選択の先。

―――その魚の名前を知ることが出来れば、たった一度だけ、振り返ることができる―――

舞台で衝撃をうけて、知識不足のために観劇中にはわからなかった役名の由来たる方々について家で調べて、今、放心状態です。

というわけで観にいってきました、『RUST RAIN FISH』!!!

もうネタバレしないとかそういう次元じゃなくて、完全に新本格ミステリで、尚且つこの国と世界と人間が辿ってきた歴史の話で、「今」の話で。いやもう私こういう舞台が好きなんだなって思いました。

新本格ミステリ

「FISH」シリーズ第3弾の「RUST RAIN FISH」。今回は再演ということでたぶん既にストーリーをご存知の方も多いと思います。
が、ド新規なので私は今回が初見でした!
ちなみに第1弾にあたる「ONLY SILVER FISH」は先日DisGOONieSで開催された饗宴版で履修できました。お弁当おいしかったです。ファンタジーだと思っていたらゴリッゴリのミステリ物でめちゃくちゃ好き―!ってなったミステリオタクです。というわけで、きっと本作もガチのミステリだろうと見込み、犯人当てするつもりで観劇に臨みました。

結果、惨敗です!

いや無理!解けない!でも、犯人を知れば確かに作中の手がかりで正解にたどり着けるんですよ。動機とかは置いといて、この犯行を実行することが出来たのは誰か?という観点において矛盾がない。新本格ミステリ。あまりにも怪しい黒木。あっちの黒木もこっちの黒木も怪しい。山本はかっこいい。北条は可愛さ全振りの勢いで可愛い。園田は最推し。星野はミステリアスかつ美しい。みんな怪しい。結局この人の名前何!?序盤のあのあからさまな程の怪しさが最後の最後に論理的なミステリとファンタジーを融合させる根拠になる。もうすごい。無理。解けない。伏線に無駄がない。すごい。西田大輔さんってすごいなあって初心者は改めて思いました。

歴史と『今』の話

伏線には無駄がないんですが、アドリブは非常に多いです。team Blackによる笑ってはいけない紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA2021!ある意味日本史や世界史よりも知識が試されるネタのオンパレード!知らない世代のネタでも力業で笑ってしまう!強い!事前に1幕60分休憩10分2幕90分って噂を聞いていたのですが終わってみれば3時間余裕で超えてました。強い。

そんな溢れんばかりのユーモアで彩られた新本格ミステリ+ファンタジーが、同時に凄まじく濃厚な歴史の話であることに気づかされる瞬間の衝撃。

第二次世界大戦・太平洋戦争!
義務教育から高等教育に至るまで、これほど教える教師の思想に左右される「歴史」は他になかったです。両極端の思想に触れたことで子供心に混乱した時もありました。正直しんどかったです。
でも、それはたぶん仕方がないことで。
何かのために、文字通り命を懸けていた時代。それは国のためだったり、世界のためだったり、大切な誰かのためだったり。強い思いは時間さえも超えて人の心を動かすから、当時の強い思いに飲み込まれるのは仕方がないんだろうなと思います。きっと。
そしてそんなたくさんの思いに満ち溢れた「歴史」を、人間味あふれる面々が「今」目の前にある感情として演じ伝えてくる。命がけの選択の先に『今』があることをまざまざと突き付けてくる。すごい。強い思いに心が激しく揺さぶられながらも暴力的に飲み込まれることがないのは、きっと舞台装置のおかげでした。水槽を越え、あるいは大海から人を眺めていたかもしれない魚の目線でクライマックスを観ることができて本当によかったです。
というのも、初回観劇後に家で「黒木」を調べて放心状態になったからです。しんどい。全ての歴史をあの窓ごしに知ることができたらよかったのに。ほんとあの窓すごいです。観客まで舞台の中に取り込みながら、中と外を明確に分けてくれる。あれなんか心理学的な何かあるんでしょうか。そういう演出技法みたいなの。詳しい方おしえてください。あれほんとすっごいですよね!

振り返りたいこと

「過去を振り返る」がテーマ(だと思っている)「FISH」シリーズ。
もう、振り返りたいこと、時間を戻したいことはいっぱいあります。
例えば劇場前でチケット発券しようとしたらスマホがバグって発券できなくなって刻一刻と迫る開演時間に半泣きになりながら通りすがりの方にスマホを貸していただいて何とか発券して「あ゛ぃがどぉございまひゅ!!!!」って叫んで会場に向かったこととか、超絶時間なくてもせめてスタバのギフトカードぐらいお礼に渡せるように持ち歩いときなよ自分ってこととか!チケット忘れないように~じゃないんだ、あらかじめ発券しておけ!……その節は大変ご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございます。
もうほんと時間を戻したいことだらけですが、時間を戻したくなるようなたくさんの出来事の先に今があると考えると、そして劇終盤で明らかになったONLY SILVER FISHの名前を思うと、振り返ることの方が怖いかも知れません。いや、怖い。たぶん最善の最高のルートを歩んできたら今の私はいない。

なんかね。こう、生きることって選び続けることで、誰かが命がけで歩んだ道の先に自分はいるんだなって改めて思いました。あの魚の名前を知ることができる人生を歩めたなら、人はもう振り返れない。過去の選択を否定しきれない。自分自身の、そして大切な人の選択を否定しきれないからこそ、「星野」のように、ただただ会いたいと願い続けるんだろうなって思います。

観ることができて、よかったです。

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