19年間の大手総合商社キャリアを経て、創業3年のスタートアップに転職した理由
enechainのCEOデスク兼Fuelデスクのゼネラルマネジャー、また子会社である株式会社eClearの代表取締役を務める堀越 徹哉さんにインタビューをしました。
enechainは、国内最大のエネルギーのマーケットプレイスを運営するスタートアップです。"Building energy markets coloring your life" をミッションに、その規模が100兆円を超えるといわれるエネルギー業界が抱えるあらゆるペインを、テクノロジーの力でアンロックし、業界全体のDX実現を推進しています。
本インタビューでは、新卒から約19年間勤めた総合商社のキャリアを経て、なぜenechainに入社をしたのか、その背景とこれからの展望をお話しいただきます。読者の皆様にとって、enechainでのキャリアの1つの形を知る機会としていただけたらと思います。
流動性のあるエネルギーマーケットをつくりたい
ー 商社では、どのような仕事をされてこられたんですか?
19年いた前職でのキャリアの中心はLNGというコモディティで、その中でも大半はLNGの自己名義トレーディング一本でした。基本的には売買を繰り返してリスクをマネージしながら収益を上げる、その中で将来のトレーディングにつながる新しい契約やアセットをつくっていくという仕事です。トレーダーとしては最初日本で、その後ロンドンで現地のトレーダーと一緒になってやっていました。
ー 19年間を振り返って、特に印象に残っていることありますか?
初期のLNGトレーディングではマーケットも成熟しておらず、何か新しいことをやろうと思うと流動性のない中、気合いで大きなリスクを取るしかなく、ハラハラする割に儲からない苦しい日々でした。一時期はかなりマイナスにもなり、特にしんどかったのは流動性がないので損切りしたくてもできない、マイナスが拡大するのを見ているしかないという時でした。かなり無茶なことをやって何とかポジションを閉じていきましたが、当時のことはいまだに夢に見ます (笑) 。
その後、アメリカからLNG輸出が始まって流通量も増え、デリバティブも発達してLNGの流動性は大きく向上しましたが、昨年のロシアショックでまた一気に流動性が枯渇。この問題は終わらないんだなと改めて思いますし、コモディティトレーディングはどこまでいっても流動性との戦いだと痛感しています。
ー どんなきっかけでenechainを知ったんですか?
前職の元同期で、現在enechainのロンドンオフィスのヘッドを務めている間澤さんから教えてもらったんです。当時間澤さんがハンブルクにいて、コロナ渦中に同期でWEB飲みをしたんですね。enechainの話を聞いた一発目の印象としては、目指す世界観は非常に面白いと感じましたね。エネルギー関連のスタートアップが日本でも増えていることは知っていましたが、端っこにある小さなビジネスというより、確実に来る未来に対してド正面から王道を行こうとチャレンジしているビジネスだなと感じたのを覚えています。
enechainが電力自由化を受けて国内電力のマーケットプレイスをつくってきているように、欧米でも同じように電力自由化をきっかけに自由に取引できるマーケットプレイスがつくられてきた歴史があります。ロンドンにいた時も、現地のトレーダー仲間から日本の電力自由化について色々聞かれたくらい、トレーダーとしても非常に興味が強いエリアです。しかしながら、日本特有の商習慣や政策・制度もあるので、決して簡単ではありません。
では誰がこれをやるのか?というと、「マーケットプレイスをつくる」という明確な意志と覚悟がないとできないと思います。たとえば私の前職の商社であれば、マーケットでの巨大なプレーヤーの側面が強いので、中立的な第三者としてのマーケットプレイス運営者という立場とは少し違う。キャリアの選択としてはコンサルや、より公的な立場でルールをつくるというのもあると思いますが、覚悟を決めてマーケットにどっぷり浸かって世界を創っていくというのは、むしろスタートアップという方がしっくりきました。
思えば、米国発で大成功を収めたICEも、2000年に創業したばかりのかつてのスタートアップ。ICEの前にオンライン取引でエネルギーマーケットを席巻していたエンロンも、最後は不正会計問題で残念な結末を迎えましたが、元はと言えばパイプラインだけから始めた新興企業でした。日本でもエネルギーのとてつもなく高い山を目指しているスタートアップが出てきているというのが、率直に面白いと感じたんです。
やるなら今このタイミングしかないと思った
ー enechainへの入社の決め手は何だったんですか?
自分のキャリアと、ビジネスそれぞれのフェーズを考えた時に、今がベストなんじゃないかと思ったからです。
1つには、エネルギーのトレーディングでそれなりに長くやらせてもらって、この経験をもとにどう世の中に貢献できるかを真剣に考えた時に、他の機会より圧倒的にしっくりきました。トレーダーとして生きることや大企業のマネジメントに進むことよりも、はるかに大きなインパクトをマーケットに残せるのではないかと。
2つ目に、マーケットがここから真剣に変革していくこのタイミングで、他の誰かができるかっていうと難しい、圧倒的なユニークネスがあること。先に述べた通りですが、国内で実現できる会社はenechainの他にないんじゃないかと思います。中立的な立場、電力事業への知見の深さ、すでに取り込めているネットワークの強さなど。
最後に、それを実現できるチームがあること。代表の野澤さんを筆頭にエネルギー界のトップレベルの有識者、ビジネス感度も技術レベルも高いテックチームがあります。入社後の発見ですが、テックチームにまあこんな感じですかねと提案すると、その日の午後にはこんなのつくったんですけど、と早くも試作品ができている。圧倒的なスピードと品質だなと思いました。
また余談ですが、このチームの強さを感じた1つのきっかけは、執行役員兼ブローカレッジ本部ゼネラルマネージャーを務める大津さんなんですよ。代表がすごいというのはよくある話ですが、最初大津さんと話したときのインパクトは大きかったです。彼のような、エネルギーへの知見もビジネス戦闘力も人格も兼ね備えた幹部がいるという点は、チームの盤石さを感じた大きな一因でしたね。
ー enechainに入社してチャレンジしてきたことは何でしたか?
“eClear” の開発と提供ですね。2022年9月のプレスリリース通り、損保ジャパンさんと提携し、電力業界の信用リスクを低減する新たなサービスeClearを提供開始しました。
本サービスの開発背景は、2020年冬以降の卸電力価格変動をきっかけとして、電力事業者による信用リスク管理の必要性がますます強くなったことにあります。日本の電力マーケットの流動性はまだまだ低いですが、価格が高騰すれば取引先の信用リスクが大きくなり、売り買いできる取引先はもっと限られてしまう。安心できる決済システムがあることは、流動性向上のための第一歩です。
この課題を解決するために開始したのがeClearです。いまだ不完全なシステムではありますが、ありがたいことに課題感を持っていたプレーヤーの皆さんに当初からサポートいただいて、取引量も増加しつつあり、我々はオペレーションの整備や体制づくりに腐心しています。
商社時代でも、「管理なくしてトレードなし」と上司から常に指導を受けてきました。enechainがマーケットプレイスとして絶大な信頼を得ていくためには、ポジションの管理、スムーズな入出金など、ミスなく正確なオペレーションが大前提となります。その意味では、まだスタート地点に立ったにすぎません。
ー 入社後1番のハードシングスは何でしたか?
やはりeClear事業の立ち上げ時は難しかったです。我々もスタートアップですので、最初から完璧なものはつくれない、一方で業界の期待に応えるようなものにする必要はあり、最初の段階でどこまでやるかは相当悩みました。
まずはここから、という決断はしたものの、未熟なプロダクトがどこまで業界に受け入れられるか全く不明、また立ち上げ時には一定のサンクコストも出るので胃がきりきりでしたね。
取引が立ち出した時には本当に嬉しかったですが、しばらくして想定以上の取引量になってきた時には「オペレーション、本当に大丈夫か?」と自分でも心配になり、結局胃のきりきりは止まらなかったです (笑) 。
ー enechainを通じて実現したいビジョンはなんですか?
一言で言うなら、流動性あるエネルギーマーケットをつくることに尽きます。
地味で保守的と言われる業界かもしれませんが、変わるなら今しかないというタイミングです。
これが電力自由化直後だと、正直ビジネスは立ち上がりきっていなかったかもしれません。今は電力自由化から6年が経ち課題も明らかになってきて、これを踏まえて国としても現実的な策を講じている。まだまだやるべきことは無限にありますが、ビジョンの実現に向けて舞台は整っていると実感しています。
しかしながら、ビジネスとテックいずれのチームも採用は大きな課題の1つです。繰り返しですが、エネルギー業界って地味だと思うんですね。成功してもあんまり目立つわけじゃない、他に脚光を浴びやすい業界があるのは事実でしょう。
でも、だからこそみんながやるわけじゃない、スタートアップのenechainがぶっちぎりの存在になれる可能性は十分あると思います。きっと経済面でのアップサイドもあるかと (笑) 。「100兆円を超えると言われる経済インパクトのどデカい領域に挑んでみたい」という想いを持つ方には、とっておきの環境だと思いますね。
ー 最後に、ともに働く仲間へ一言よろしくお願いします
ガンジーの言葉に「Be the change you want to see in the world (見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい) .」という言葉があります。私の場合はトレーディングから出発して、こんな変化があったら面白いだろうなと日々考えていた中で、その変化がまさにenechainでした。
もちろん進む道はめちゃめちゃ厳しいですが、ここには同じ思いを持つ素晴らしい仲間が沢山います。世界の変化を自らが体現し、道を切り開いていく。そんな生き方もいいかなと思われる方は、ぜひenechainにご連絡ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?