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3章-(5) 女王の高台・バビントン舘
● チャッツワースの屋敷のすぐ近くに、もう廃墟となっている「高台」の ようなものがあった。柵を巡らされていて入れないが、片側に階段があり、上り詰めたところが遠景の平らな広場のようになっていて、今は草が伸び放題だった。
ここでメアリー女王は、体操をしたり景色を眺めたり、気晴らしをしたのだとか。「高台」のふもとはぐるりと堀が巡らされていて、今は干上がっているが、元は水をたたえていたに違いない。
身分に相応しい配慮がなされていたとはいえ、逃亡を防ぐための水であろうし、やはりとらわれの身の不自由を思わずにはいられない。
● ちなみにツヴァイクによれば、1569~1584 の間に、女王は「ボールトン城」「チャッツワース」「シェフィールド城」「タットベリー城」「ウイングフィールド城」「フォザリンゲー城」と、たらい回しで幽閉され続けた。
しかし、メアリー女王はフランスから年200ポンドの国家年金 (寡婦年金) を受け、エリザベス女王から週52ポンド (年間52週として2704ポンド) を支給されていたので、女王としての対面を保つことはできた。ただし、「自由」はなし。
銀の食器のみ用い、トルコ絨毯、家具、50人以上の従者(女官、侍女、小間使い、執事、牧師、医者、書記、出納長、衣装係、仕立て職人、室内装飾係、司厨長・・)で、小宮廷を築き、移動のたびに行列になったそうだ、
● アンソニー・バビントンはあの悪名高きベスの夫、シリューズベリー伯爵の小姓だった、『時の旅人』の物語の中で、シスリー伯母の会話で「アンソニー若殿様は14歳の頃に、シュリーズベリー伯爵の小姓として、シェフィールドにおあがりになった。そこに女王様が幽閉されてお出でじゃった・・そして、とらわれの悲運の女王の美しさに心を奪われたわけよ。哀しいことだがね」とある。・・・この部分を、ツヴァイクは後に否定している。「アンソニーは生涯メアリー女王とまみえることはなかった」と。
● そのアンソニー・バビントンのマナーハウスであった《デシック(=物語の中のサッカーズ)》に一行はバスで移動し、2:00~3:15まで見学した。
最初に入ったのが、屋敷内の《教会》だった。素朴な板張りの天井。ステンドグラスは1枚。祭壇の前にあるのみ。塔へは上がれず、塔の裏手に回ると、イチイの大木があり、その近くの戸口当たりが、ペネロピーが床下に閉じこめられた跡、雨にぬれて発見されたところだろうか、と語り合った。
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空は晴れ、外はなだらかに起伏する丘陵が広がり、遠足を楽しむ親子連れが教会に出入りしていた。言葉を交わした老姉妹は、12マイル(19km)離れた所からフットパスを歩いて来た由。姉の方が、近くの小学校でかつて教えていたので、懐かしい場所なのだという。
● 台所へいれてもらい、老夫人(ルース・グルームさん) の説明を聞く。評論社版の『時の旅人』が置いてあった。最近BBCが『The Traveller in Time』を映画化し、カナダ、オーストラリアでは放映ずみで、いずれ日本でも放映されるのでは、とのこと。
その映画の中では、ベネロピーは現代の少女に扮し、Tシャツ、ジーンズ姿で登場するので、アトリーの設定時代とは完全にずれている。メアリー女王に扮した女優は、きらびやかに飾られた馬の、タペストリー製の見事な鞍にまたがって登場する。撮影隊のひとりが捧げた《詩》を添えた添えたスナップ写真を模造紙に貼ったものを、見せて貰った。
● バビントン・マナーハウスは、元は43室もある大きな屋敷で、その台所では三つ並んだ大きな釜戸がフル回転していた。肉をぶら下げて焼く回転道具の跡も見せてもらった。今残っているのは、〈中央の暖炉〉のみで、左側は窓に、右側は台所に改造されていた。
この炉の前で、口のきけないジュードは、あぶっている肉を見張りながら、ペネロピーを窺っていたのだ。その屋敷はとうになく、農場もいくつかに 分割されて現在に至っている。
● 私たちは夫人と共に、その暖炉の前で記念写真を取って貰った。
夫人は現在、夫君と小さなB&Bをここでやっているとか。2階の部屋を客室として、泊らせているらしい。
台所の外に大きな木があり、その下に木のベンチがあって、あ、バーナードおじさんのお気に入りの場所だ!と勝手に決めて、木に耳を当ててみた。 風の音がきこえるばかりだった。