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(58) 結び帯

空が晴れ上がり、さわやかな秋風がへやを吹き抜ける頃、おばあちゃんは 毎年、着物や冬物の虫干しをします。

今年は早苗も手伝いました。縁側から座敷までロープを何本も張って、その上に幾枚も、着物をかけていきます。洋服はハンガーで、鴨居にかけます。

「こんなに古い帯もとってあるの?」

早苗は見慣れない、縞の博多帯を取り上げました。

「それは早苗のひいおばあちゃんの、大事な形見なのよ」

おばあちゃんの話は、こうでした。

戦争の頃、一家は長野の田舎へ疎開していました。

空襲で、明神町のるす宅は焼け落ち、戦後、焼け跡に小さな家を建てました。


IMG_20210911_0015結び帯


まもなく、その家を訪ねてきた人が、この博多帯と百円札を10枚差し出して、ひいおばあちゃんに言いました。

「7年前、うちが火事になった時、お宅のお母さんに帯を頂いたのです。 最近、仕立て直そうとしたら、帯の間から、このお金が出てきて・・。  帯はたしかに頂いたけれど、家一軒建つほどの、こんな大金をもらった覚えはないものですから・・。うちの家は空襲では、幸い焼けずに済みましたけど、お宅は街中でしたもの・・。何かしたいと迷っている時に、この帯の中のお金に気づきまして・・、あの時の有難かったこと、思い出されました。 どうぞこの帯も、あなたがお使い下さい。お母さまの形見ですもの」

嬉しい話だよねえ。貨幣価値は下がっていて、家はとても建たない金額だったけど、真っ正直な心意気は、闇夜のお月さまだった。人助けはしとくものだって、ひいおばあちゃんは、このわたしにも口癖のように言ってたよ。

その人が返してくれたその帯は、代々伝えるべき家宝になっていたのです。


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