1章-(6) 寮規則15箇条
急に寮じゅうが真っ暗になり、1年生たちはさわいだ。
「停電? 今ごろ?」
「なんで? 遅れてるう!」
「ほんと!懐中電灯がいるんだね、持ってないわ」
バタバタと駆け出して行く音がした。上級生たちらしい。
「静かに! この建物は40年経っているので、ときどき停電します」
影山寮長の声が、闇の中でびんびん響いた。
「誰かが違反をして、禁止されてる電気器具を、隠れて使ったりすると、 こういうことになります。ドライヤーとか、ヘアカラーとか、電気ポット とか その他もです。皆の迷惑になりますから、ぜったいに違反しないで ください」
ドライヤーは、40人にたった5台よ! ひどいよ! 1年生のひそひそ声が、あちこちで起こった。
ろうそくの光が2つ入って来た。班長たちにもろうそくが次々渡され、火を移し合って、集会場はぼんやり明るくなった。
寮長はろうそくの光の中で、15箇条を読み上げていった。
香織は耳を疑った。寮のきまりがこんなに厳しくて、わずらわしいなんて、夢にも思っていなかった。
・朝、6時起床。
・寮監と上級生全員に挨拶めぐり。
・寮じゅうの分担掃除、毎朝行う。トイレも。
・登校時、ハガキ大の名札をつけて登校すること。
・外出はすべて許可を得てから。
・門限は7時・・。
・11時消灯。
・食事を残した者は、裏庭に飼っている豚のえさとして、各自運ぶこと」
香織は思わず、直子の腕をつかんだ。
(助けて、毎回豚小屋行きだわ)
(いいとも、まかしといて!)
直子がぐいと合図を返した。頼もしい援軍だ。
・黙学時間は厳重に守ること
・1年生は、アルバイト禁止。
・パーマは厳禁。
・外泊、ボーイフレンドは、1年生は厳禁!
今度は直子が香織をつついた。
(そんなのあり? 予定狂っちゃう)
直子の最大の目標は、ボーイフレンドを持つこと、と夕食の前に部屋で、 香織に打ち明けたばかりだった。身体が大きすぎて、いつも失恋ばかり。 オリが羨ましい、と言って、香織を驚かせた。
香織はボーイフレンドはいない。だから失恋の味も知らない。これからだって、自分の身にそんなことが起こるなんて思えない。自信がないもの。自分から男子に話しかけたこともないし。
・喫茶店へは親族とのみ許可。
・夜7時から、3時間の黙学時間。
・9時の点呼。1年生が机にむかっているか、班長が点検。
いつの間にか、15箇条の読み上げが終り、巻物へのサインが始まって いた。ろうそくの光の中で香織も毛筆ペンを渡され、なんとか書き上げた。