12-(5) 正月迎え
あんもちをつつむのは、簡単そうでたいへんだった。おばさんたちが手早く3つ作る間に、マリ子はたったひとつに悪戦苦闘したあげく、くちゃくちゃになってまとめられず、最後はマリ子の口におさめるほかないのだった。 こういう時は、お兄ちゃんの方が、教わるとすぐ習得してしまう。
「マリちゃんはやっぱり火のとうばんが、いっちゃんじゃ」
と、正太の親父さんにからかわれた。
かがみもち、豆もち、きびもちとつぎつぎにつきあがる合間に、きなこもち、おろしもち、あんころもちがマリ子たちにも配られ、つきたてのおもちを食べ放題させてもらった。
その間に、竹次さんのもちはすべてつき終えたらしく、いつのまにかその姿は消えていた。
おとうさんが最後のひとうすを、つき終えたのは、夕方の5時過ぎだった。その後も、おとうさんは うすを土間に運びこむのまで手伝っている。
お兄ちゃんは正太といっしょに、カマドの火を消し炭つぼに入れたり、燃え残りのまきに水をかけたりしている。
おかあさんの呼ぶ声に、マリ子がかけつけると、もろ箱に並べた丸もちの 上に、おかあさんはわが家のあんころもちを、いくつかのせて言った。
「これを岡田のおっちゃんに届けてあげてな。もろ箱は、うちのじゃけど、おもちがのうなるまで、使うてもろてええです、て言うといて。うちは正太さんとこのをひとつ貸してもらうことになったけん」
「わかった。行ってきまーす」
もろ箱を抱えて歩き出したマリ子のうしろで、正太の親父さんがマリ子の おとうさんに、誘いの声をかけている。
「先生、片づけっちもうたら、いっぺぇ打ち上げをやりますけん、座敷の方へ上がってくだんせぇ」
「いやいや、わしはそれだけは・・」
おとうさんはやっぱり逃げごしだ。マリ子は半分ふりむいて、おとうさんの助太刀をした。
「うちのおとうさんは、お酒が1滴も飲めんの、わかっとるじゃろ、 おっちゃん」
「そうじゃった、マリちゃん。わかっとるって。そんじゃ、お茶の水割りで、夕飯だけでもすましてくだせぇ」
そこまで言われては断れず、おとうさんは食事をよばれることになった。 それを見届けてから、マリ子はとなりのおっちゃんに届けに行った。
岡田のおっちゃんは、ささげるようにしてもろ箱を受け取った。
「だしぬけたんじゃな? あいつは・・」
やっぱり気にしてたんだ。マリ子は大きくうなずいた。おっちゃんもうなずき返した。
笑いはしないが、その目が光っているのは、気がすんだのか、満足したのかなと思えた。
「おもちのええ匂いがしとる」
おばちゃんがふたを持ち上げた。
「わりいなあ。あんころもちまでそえてもろうて。ありがと、ありがとう」
おばちゃんの声が、なみだ声に変わった。
「・・けぇで正月が迎えられる。すまん・・」
おっちゃんはそれだけ言うと、もろ箱を抱えて部屋に上がってしまった。
マリ子は正太の庭に戻りながら、行きよりも脚が重く感じられてなら なかった。2人にちゃんとおもちは届けられて、マリ子はその手伝いが できて、いいことをしたはずなのに、どうして? 首をかしげて考えて みても、答は出てこない。なぜか切ないもやもやした感じが、胸のあたりにうずまいていた。ほんとにおとなって、ややこしいや。そのうち、わかる
ようになるんだろか?
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