![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/88034864/rectangle_large_type_2_6eab661735000a9f491cd128a91c8f51.jpeg?width=1200)
(8) つくしの団地で
でも、キリンをかかえて、一郎をたよりにして 見上げているたっちゃんを見ると、もう強くは言えなくなっていました。
「もう、のれないよ。あるかなきゃだめだよ」
たっちゃんは、すなおにこくんとうなずきました。
キリンをしまおうと、リュックのふたをあけてみると、そのうらに、もじがありました。
つくしのだんち 2-1-10 いのうえ たつお
つくしの団地というのは、坂の下の、サンダースれんしゅう場の むこうにあります。どうあっても、この長い坂道をおりなくてはならないようです。それにしても、たっちゃんは、よくこんな遠くまで ひとりでのぼってきたものだ、と一郎はおどろいてもいました。
ボロ自転車のブレーキをにぎったまま、かた手でおしながら、もうかた手は、たっちゃんの肩に手をのせて、つくしの団地へむかいました。
サンダースれんしゅう場には だれもいなくて、道とのさかいめには、夏草がしげっていました。すぐそばの8かいだてのたてものに、⑤ のすうじが 見えています。このぶんだと、② はすぐに見つかるでしょう。たっちゃんは、今は、一郎のこしのバンドにつかまって、ちょこちょこついてきます。
④ と ③ の間に、ゆうえんちがありました。男の子がひとりで、ゆうえんちのへいを相手に、キャッチボールをしています、
「たっちゃん、また、まいごになったの?」
その子が、声をかけながら、近づいてきました。しましまTシャツのむねに、名札がついています。
3年2組 すずき あきら
「うん」
たっちゃんは へいきでうなずくと、一郎の自転車のうしろにまわって
「ボチの。ボチのじてんしゃ!」
と力んで、荷台をたたきました。
「へえ、自転車をもらうの。すごいね」
あきらが言いました。
一郎はびっくりして、思わず言いかえしました。
「ちがうよ、この子、のせてやっただけだよ」
あきらがにやにやしました。
「たっちゃんが、ボチの、っていったら、ボチのになっちゃうんだよ」
「そんなのないよ!」
一郎は自転車をぐっとひきよせました。それから、はっと気づきました。 そういえば、ポケットのソーセージは 半分こになったし、自転車にのせるはめになりました。でも、そうかんたんに、トオル兄ちゃんのかたみを、 ゆずるわけにはいきません。
「きみもやられたの」
いつのまにか、一郎はあきらにそう話しかけていました。
「もっちろんだよ。ボールだろ。ぼうしだろ。ぬいぐるみなんかいっぱい。それに3りん車もね」
「へえ、3りん車も」
「みんな、古くなってたからさ。かたづいて、ちょうどよかったんだ」
あきらは、兄きぶって、そう言いました。それから、一郎の自転車をじろ じろ見ました。こんなのやっちゃえば、と言いたそうです。
「この子のうち、どこだろ」と、一郎がきくと、 「すぐそこさ」
先に立って、あきらはかけて行きます。②のたてものの、1かいのはしのベランダに、おむつがいっぱい ほしてありました。
「おばさあん、たっちゃんが、またまいごになったって」