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1章-(3) 香織作品の専属係

すると、隣の席の横井さんが、ハイハイ!と声といっしょに両手を挙げて、新たな提案を出した。
「あのね、2通りの書き込み欄を作るのよ。ひとつは〈これが一番スキの欄〉もうひとつは〈これを絶体買いたい〉の欄にして、買う方は予約3名  まで、にするのよ」

おうっ!  いっせいに拍手になった。前田さんが早速計算する。
「22x3=66ー現在ある22=44ね。新たに44個作るのでも大変だけど、どう? なんとかできそう?」

問われて、香織は頭を抱えながら、こう答えた。
「ひと月に10個作るとしても、4ヶ月以上かかるわ。クリスマスまでに、終りそうにないし、中間考査も期末テストもあるから、無理だわ。それに、校医先生に、無理しちゃダメって言われて、体育の授業もよく休むでしょ。でもね、どれにも3人ずつ欲しい人が出るとは思えない。どれが一番スキの欄だけでいいと思うけど・・」

「そんなこと言ってたら、ミス・ニコルに寄付金を、お渡しできないじゃ ないの」
と、佐々木委員長と松井委員長に、声をそろえて言い返されてしまった。

「それなら1種2名に限定しましょうか?」と松井さん。
「それはそうと、寄付金集めなら、1枚いくらと値段をつけるのは、止めにして、欲しい人が自由に値段を決めて、寄付金箱に入れてもらう方が、寄付らしいと思うけど・・」
と、佐々木さんが言い出した。香織はすぐに賛成した。ミス・ニコルもきっとその意味でおっしゃったのだと思えて・・。  

「なんだか、笹野さんのニットが、特技展の目玉になりそうね」
と、コーラス部の三上さんが予言のように言った。悪意で言ってるのでは ないことは、表情と声の調子で、香織にもすぐにわかった。三上さんはオペレッタの中心になって、横井さんたちを指揮している人だ。

確かに他にも、マンガや詩集などもあり、ギター、琴、ピアノ演奏もあるのだけど、クラスの話題は、今、香織の額縁モチーフ一点に集まっていた。壁一面を独占しそうな気配まであった。

「特技展の責任者は私と松井さんで、私たちは全体のそれぞれを、見なくてはならないでしょ。笹野さんのは出品数も多いし、話題も呼びそうで、やっぱりひと目を惹く意味でも、目玉になるわね。それで、どなたか3人ほど、専属の係になって頂けないかしら」
と、佐々木委員長が皆を見まわした。

「私、なってもいいわ。ギターの演奏だけだから」
と、前田さんが言い出した。
「じゃ、わたしも。マンガは描いちゃって、5冊出すだけだから」
と、卓球部の内田さんも名乗りを上げた。
「私にお手伝いできるかしら。ほかに何もしてないし」
と、芦田君子さんが、小さい声で言った。

「大丈夫よ。細かい仕事がいくつもあるのよ。売るときのお金の計算もあるし、寄付金箱を守ってなくちゃ」
「書いてもらう時、説明をしないとね。こっちにはスキ、こっちは買いたい人に住所氏名など、連絡方法を書いてもらうことをね」
前田さんと内田さんに説明されて、芦田さんはうなずき、3人が決まった。

香織は芦田君子の名前を覚えていた。1学期の期末試験の結果を先生に見せられた時、一番下の欄に、最初に目に飛びこんできた名前だった。入学した後で、補欠の最後の人と聞かされていた。成績の上では、ライバルに当たる人なのだ。それは、香織だけの、だれにも言えない秘密ごとだった。 

直子がB組のドアを開けて、香織に手をふると、こう言い残した。
「オリ、今日は直井さんとテニスするから、寮には先に帰っててね」
「わかった、直井さんによろしくね」                 と、香織も手を振り替えした。

「笹野さんは寮で、オリって言われてるの? それ、いいな。これからそう 呼んでもいい?」
と、横井さんが言うと、佐々木委員長も頷いて、即、クラスでもオリと呼ばれることになった。

寮に帰ると、香織はすぐにカレンダーを作った。その日の復習と翌日の予習が出来れば○と決めて。夕方の散歩もなるべく続けることにして、その欄も作った。ラジオ英語を聞きながら、キャンパスを一周することにする。

正門脇の門衛室の中井茂さんとも、会釈したり、時々話したりもするようになっていた。寮の裏側も回っていると、地下室にいつもいるはずの、用務員のシンおじさんとも出くわして、挨拶はしてる。おじさんに出会うたびに、寮に入った最初の日に、上級生に脅されて、食事を残すと、裏庭の豚小屋に残飯をやりに行くこと、って言われたのを思い出し、シンおじさんにもだまされたっけ、とこっそり思い出し笑いをしてしまう。

カレンダーを作り上げて、さて今日の復習にかかろうとしたら、ドアをトントンと叩かれた。
「笹野さんにお電話です」と、週番の声。
「はーい」

かかるとしたら、結城君か、野田圭子だわ。香織は浮き立ってにこにこしながら、電話ボックスへ飛んで行った。  

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