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(141) 焼けたもの

角を曲がってわが家のある路地へ入ると、前方の道いっぱいに、人が群がって騒いでいます。

朝子がカバンを抱えて駆け寄ると、アパートの前から救急車が走り去るところでした。何かの焼けた匂いが鼻をつきます。消防車が役目を終えて、動き出しています。

朝子は2階を見上げて、どきりとしました。2号室です。あの新婚さんの部屋は、壁もガラス戸も水をしたたらせていました。

「てんぷらで火事になったんだって」
「顔にまともに火をかぶったそうだよ」

救急車はあの人だったの?
朝子は聞き耳を立てました。

「きれいな人が不運だねえ」
「新婚なのに、ご亭主の方が、がっかりするよねえ」

やじ馬たちは、同情と好奇心丸出しで、ささやき合っています。

朝子は不安いっぱいになって、その場を離れました。

やけどをして醜くなったら、それだけで愛は消えるの? そんなにもろいものなの?
幸せの見本みたいな二人だったのに・・。
 

ひと月ほどして、朝子はまぶしい光景を目にしました。


焼けたもの


アパートの前で、彼は彼女を大事そうに抱え上げて、自転車の荷台に乗せていました。顔の片面を、ほうたいに包まれた彼女が、微笑んでいる横顔が見えました。

朝子は叫び声を上げたくなって、自転車の後から、路地を駆けて行きました。


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