(172) 街中の基地
Sデパートのふるさと物産展を見ようと、星さんは自転車で家を出ました。途中わずかな上り坂を3度上って行くうち、息切れと胸苦しさで進めなくなりました。そうなると、自転車は大きな厄介物でした。
道ばたに置き去りにして、バスに乗り込むわけにもいかず、家に引き返すのもはるか遠くに感じられます。あたりには知人の家もありません。
ふと思いついて、時折立ち寄る八百屋のおじさんを訪ねました。事情を話すと、いともあっさり自転車を預かってくれました。
「いつも元気な人だな、と思っていたら、こういうこともあるんだね。いつでも引受けるよ、場所はなんとかあるから」
おじさんは軒先の影の中に自転車を入れてくれました。それで安心して、近くのバス停に立ちました。
お目当ての北陸の漬物やお菓子を手に入れて、バスで八百屋まで戻ると、おじさんはブドウの包みを手に、客ともめているところでした。
「負けとくって、200円でいいんだよ」とおじさん。
「そう言わずに値札通り250円払うよ。いつもいつもまけてもらってばかりで・・。少しはもうけることも考えた方がいいよ!」と、これが客の方。
「悪いなあ・・もらっちゃって」と、おじさんは照れています。
珍しい押し問答にクスクス笑っているうちに、星さんは元気を取り戻していました。
本当に有り難い基地として、それから何度か使わせてもらいました。