14-(1) ないしょごと!
外は陽射しのない2月の曇り日、講堂の床はひどく冷たかった。マリ子たちは、床に座って、先生たちを待っているのだが、寒いのもあって、じっとしてなんかいられない。押したり転げまわったり、つつきあったり、わめいたり・・。
マリ子たち4年2組と、となりのクラスの1組の全員が集められて、さわがしさも頂点に達していた。
やっと1組の金子先生がひとりで、本やプリントを抱えて、走るようにして入ってきながら、叫んだ。
「扉をぜんぶ、しめとけ。でぇじな、ないしょの話をせにゃならんけん」
男の子たちが四方にわっと散らばって、5つある戸を閉めに走った。
「せんせい、なんじゃ?」
「ないしょ、ってなになん?」
八方から聞こえる問いかけを、先生は両手でしずめた。
「まず最初に、これはないしょ話とちがうんじゃが、2組の田中先生が胃を悪うして、きのう入院されてな。手術で1ヶ月休まれることになってな」
マリ子は思わず手をたたきそうになって、両手をにぎりしめた。『泣いた赤鬼』の、青鬼役をやらなくてすむかも! バンザイ、だった。
やせてるせいか、マリ子が青鬼に選ばれてしまったけれど、青いふんどしをして、顔まで青くぬられるなんて、ぜったいにいやだった。
「授業の方は、ほかの先生にも助けてもらうことになるんじゃが、困ったのは、3月のお別れ会の劇のことなんじゃ。2組は『泣いた赤鬼』をやるつもりじゃったそうなが・・」
ここで、金子先生は口ごもった。
「先生、何がないしょ、なんじゃ? 早うきかせてくれんと、のう?」
2組の大熊昭一が、みんなを見まわして言った。
「まあまて、話はこれからじゃ。実はな、5年生は1組と2組の合同で、 アンデルセンの話を元にして、オペレッタちゅう、歌とダンスのしゃれた 劇をやるんじゃそうな。1月の初めから準備を始めとって、今までないしょにしとったらしいけどな。きのうの帰りに、そのことがわかったんじゃ。
なんしろ5年1組の白木先生は、東京の音楽大学を出とられるけん、衣装 まで白鳥のドレスをそろえるつもりじゃそうな」
女の子たちがいっせいに、わあ、と声を上げた。ええなあ、うちらもやり たい!
「せぇでじゃ、わしらの1組は朗読劇のつもりじゃったけど、地味すぎるで、やめることにしようかと思うてな。お別れ会は、村中の人が見に来られる日じゃし、4年生もふた組合同で、ドカーンと楽しい劇をやらかそうかと思うてな。どうじゃ?」
わあ、とまた歓声が上がり、拍手がわき起こった。
金子先生は話しやすくて、とってもいい! マリ子は身をのり出して、手をたたいた。
「わしもふた組べつべつに、めんどうは見きれんけん、考えてな。大ぜいでやれて、簡単で、楽しいのはないかとさがしたんじゃ。そこでじゃ。2組の『赤鬼』も、やめにしたらどうじゃろ、と思うてな」
これでほんとのバンザイだった。マリ子は飛び回りたいほどうれしく なった。
「へぇで、何をするんなら」
また昭一が半立ちになって問いつめた。
「『ピーター・パン』の劇は、どうじゃろう?」
言い放って、金子先生は顔じゅうでうれしそうに笑った。田中先生より首から上、背が高くて横はばもあるのに、この時は、でっかいわんぱく小僧みたいだった。
(画像は、蘭紗理作)