11-(1) 待ち合わせ
今度の日曜日に遊びに来ない? と三上裕子にさそわれたのは、火曜日の 昼休みのことだった。マリ子はもちろん、とび上がって喜んだ。
「行く行く! 地図書いて!」
「そげなもん、いらん。お鈴や妙ちゃんがうちを知っとるけん、いっしょに来りゃええ」
「わかった。何か持ってく?」
「なぁんもいらん。手ぶらで来てな」
とは言われたものの、マリ子のおかあさんが、町から手みやげを買ってきてくれた。手提げぶくろを渡しながら、おかあさんは忘れず注意した。
「ちゃんと、おぎょうぎよくするんよ」
「わかってるって!」
マリ子はおかあさんのエンジ色の自転車にまたがると、ふりきるように坂道を走り下りた。どんよりとくもっていて、11月20日の寒い日だ。でも、ハンドルには、新しい風よけカバーがかかっていて、手首にふれるふわふわのウサギの毛が、あたたかくて気持ちいい。
黄色のモフモフのセーターの上に、ウールのチェックのチョッキ、紺色の 毛のズボンで武装していれば、11月末の風もなんのそのだ。
小学校の門のところで、小川妙子と妹尾鈴江が、ちゃんと待っていてくれた。2人ともそれぞれ、布バッグに何か持っている。
「やっぱり、おみやげは何かいるんな」
マリ子が持って来てよかった、と思いながらそう言うと、鈴江と妙子が同時にうなずいた。
「今日は裕ちゃんのたんじょう日なんよ」
「えっ、ほんまに? うち、知らんかったわ」
マリ子はハンドルにかけた袋の中身が、きゅうに心配になった。
「プレゼントの心配させんように、いつもおたんじょう会です、て裕ちゃんは言わんのん」
と、妙子が説明してくれる。
「じゃから、うちはいつも本をあげるん。裕ちゃんとこは、おとうさんも おかあさんもおばあちゃんまで、みんな本が大好きじゃけん。おかあさんは前は小学校の先生じゃったし・・」
と、鈴江が言えば、妙子も続ける。
「うちはスケッチブックと鉛筆じゃ」
マリ子は2人の品に感心して、ますます心配になった。おかあさんは何を 選んだのだろう?
「3人乗りする?」
と、マリ子はさそってみたが、おとなしい鈴江と妙子は首をふった。
しかたがない。マリ子は自転車を引いて、川ぞいの道を歩いた。
見わたすかぎりの田は、円錐形の稲わらを点々と乗せて、田のすき返し作業が始まっていた。牛に犂を引かせる人もあれば、自分で金鋤を振り上げている人たちもいる。すき返しが終れば、稲田の一部に水がはられ、イグサの苗が植えられる。年の暮れ頃には、育った苗を広い田んぼに植え直してから、正月を迎えることになる。これはマリ子のいた山向こうの瀬戸でも同じだった。非農家のマリ子は、ただ見ているだけだったけど・・。
(画像は、蘭紗理作)