見出し画像

4章 (2)'87/1月末 首相の政策

「あなたの質問の韓国人からのクリスマスカードのこと、わかるわけないでしょ。でも、私の推理では、その人はIBBY世界大会で、あなたを見たのよ。あなたがあまり素敵なので、一目惚れして、直接声をかけられなくて、あなたに名刺をもらった人に教えてもらったのよ。ソウルに帰ってから、毎日、手紙を書いては破り、書いては破りして、結局、さりげなくクリスマスカードにしたのよ。わあ すてきなんだ。韓国人の名前は、男女別がはっきりしていないから、男性とは限らないけど、でもきっとそうよ。住所は、私の住んでた所のおとなりで、懐かしいわ」

なんて書いてくれて、ケラケラ笑っちゃいました。すてきだなんて、一目惚れだれなんて、まさか、だわ。で、その後、問い合わせ用の英文を書いたけど、正月にかけてのどさくさで、まだ出せないの。切手をいくら払えばいいのか、どこで手に入るのかわからないから、いずれ調べて、報告しますね。

早くも1月も末、1年の12分の一が終るのね。先日、デジタルウオッチの電池を入れ替えたら、計算がすいすいできるようになって、私の〈残る日にち〉を打ち込んでみたの。欲張って75歳まで生きられるとして、10240日でした。その数字を見ると、〈有限〉を感じずにはいられないわ。あなたは私より11歳年上で、年中インフルエンザや、腰を抜かしたり、ヘルニアっぽくなったり、いろいろあるから、私の半分くらいしか日が残っていないんだ、と思ったら悲しくなってね。それでいそいで、このノートを引っぱり出したの。

このところ、中曽根首相にはカッカして、テレビで顔をみると、側に息子たちがいても、毒づいてるの。四角を丸く言いくるめるような所があって、社会党のおタカさんじゃないけれど、「長く在任していればいるほど、将来取り返しのつかない方向に日本が持っていかれる」感じを、ひしひしと感じてるの。〈間接税〉と〈マル優廃止〉で、ガンガンと両方のほっぺたをひっぱたかれ、〈年金法改正〉のため、私など長ーく〈国民年金〉を納めてきたけど、いざ受け取る時になったら、私のは全部〈掛け捨て〉になるらしいわ。ミスターMの〈厚生年金〉の半額をもらうのと、どちらが多いかを比べて、片方だけを選ぶとすると、国民年金の方が少ないに決まってるもの。以前は両方貰えたらしいのに、1本になるらしい。もう国民年金の払い込みはしたくないわ。

軍拡なんか、もう結構!アメリカの言いなりになって、P3Cなんかアメリカの5倍分(100機とか)にもなるそうよ。何もしなくて、何もできなくて、カッカしてるけど、前の時代の、戦争に反対しなかった人たちと同じじゃないかと思えて、気落ちしてる。

アヒルが4ヶ月あまり卵を産むのを休んでたのに、また生み始めたの。私自身ももう終わりだと思ってたら、6ヶ月ぶりにまたあって(何だかわかる?)ほっとしたり、そういう年か、と感慨がある。「玉手箱」の編集長が、私よりひとつ若いけど、夫婦2人きりで、身近に相談できる人がいないので、私に打明けてくれるの。ひと月でも遅れたり、なかったりすると、死ぬほど悩むのだって。彼女は娘を死産して、以後恵まれず、遅すぎる年だから、心配するのよ。

「暮らしの手帖」6月号に、田辺聖子さんが「老いの先達」を書いてらして、ご主人が4歳年上で。50代後半になってから、食が細かったり、パーテイを早めに切り上げたり、明日を考えて体力調整するのを、人一倍元気な聖子さんは、苦々しく思ってたらしいの。ところが、自分がその年になってみると、同じ事をやっていて、ああそうか、とわかってきた、って。家の中でも会社でも、いろんな年代の人が一緒にいて、年上の者たちの暮らしぶり、生き様をみていられる方がいいのだって。後から行く人が安心していられるって。

これを読んで、私はあと10年書けるだろうか、と思ってしまった。11歳年上のあなたは、立派にやってらして、今も素晴らしいエネルギーで書いてる。「ルビー色・・」だって、3週間で200何十枚かを書き直ししたのだものね。少しずつ〈老い〉について、身近に考えずには、いられない近ごろです。

いいなと思ったら応援しよう!