(44) じゃんけん家族
「おみやげは言われたとおり、8種類のケーキにしたよ。選ぶのに迷ったけど、けっこう面白かった」
ママの弟の浩司おじさんが、ケーキ入りの箱を朝子にわたしました。これで、パパの誕生日の献立は完ぺきです。テーブルには、ママ手作りのごちそうが並んでいました。
やがて、パパが新入社員をふたり連れて帰宅しました。
茶の間で総勢8人、パパママと子ども3人に、浩司おじさんと客で、賑やかに食事が始まりました。
弟たちは、手巻き寿司のスプーンを、うばい合っています。しゃっちこばっていた新入社員も、ウニや揚げ物に手を伸ばしています。ビールで赤くなったパパは、笑いっぱなしです。
パーティのハイライトは、じつは、最後のケーキ選びでした。ジャンケンで勝った者から順に、種類のちがうケーキを、自分で選び取るのです。今夜のように人が多いほど、じゃんけんは入り乱れて盛り上がります。
あいこでしょ、とくり返すたび、笑いがはじけ、心がひとつになっていく ようです。
ケーキを平らげながら、社員の一人が言いました。「じゃんけんって、面白いものですね。またやりたくなりますよ」
「じゃ、後かたづけも、じゃんけんにしましょ。負けた人は、私と洗い物するの。パパは今日ははずして、私もはずれて・・」
と、朝子が提案すると、すぐに皆が賛成!さっそくまた、じゃんけんとなりました。なかなか決まらず、もう一人の社員の方が、最後に負けて、朝子と台所に立ちました。
ママと弟たちが食器類をまとめて、運んでくれます。
「こういうのもいいなぁ。負けるの、災難だったけど・・」
彼がつぶやいています。そっと見やると、ぶきっちょな手つきで、皿をふきながら、にこにこしているのが見えて、朝子はほっとしました。