3章-(3) 全員で小旅行(6/5)
アンナにもらったアスピリンを飲んだ夫は、唇その他がひどくはれ、ジン マシンも強く出たため、朝食はほんの少しにして、9時半、大学へ出かけて行った。その薬は彼には合わなかったのだ。他人の薬をもらって飲むものではない、と聞いてはいたが、本当なのだ。心配きわまりなし!
私は11:30まで片付けと身支度、記録をする。
非常に暑い日。しましま半袖、黒ズボンにオレンジ色ブラウスに決めた。 今日は午後から全員で小旅行のはず。
11:30、ジュデイットとウイルの車で大学へ。実は11:15にアンナとエリサが、デッカズヴァルドの宿で待ってるはずなのに、いなかったと いう。私たちを大学に下ろすと、ウイルはまた2人を探しに車を走らせた。
ジュデイットと私はロビーのソファに座って、夫たちの勉強会が終るのと、ウイルたちの帰りを待っていた。その時、ジュデイットが、ゆっくりと訥々と、英語で自分のことを話してくれた。
スペインの大学で、彼女は数学を専攻していた。スペイン大学では他の学科は4年で終了だが、数学科は5年かかる。その最終学年の5年目に、それまでも数学の難しさと試験づくめに悩まされていたが、とうとうついて行けなくなり、精神的にまいって、ノイローゼになって退学し、家で静養した。 仕事には就かず、薬を何種類も試してみたが改善せず、治るまでに2年ほどかかった。
「時間がクスリよね」
と、私は言った。私のことも病気や実家の兄の破産などを話した。
ジュデイットは今、数学教授と結婚しているのも、大学退学や病気の頃に、彼がずっと気にかけてくれて、結ばれることになったのかも、と私は勝手に想像した。ほんとはどうなのか訊かなかったけれど。
ジュデイットは英語が苦手というより、弾丸のように勢いをつけて話す他の人たちに、ついていけなかっただけなのかもしれない。
やがて男性陣が教室から出て来て、ウイルも車で戻って来たが、やっぱりアンナたちが見当たらない。どこへ消えたか見当もつかない、とウイルは顔色を変えている。あちこち車を走らせて、探したのだって。 夫君たちも気がかりそうに不審がっている。
12:20まで待って、昼食のパン・牛乳・リンゴかオレンジのどちらかを選んで、バスに持ち込んだ。やっとアンナたちから電話がかかり、宿の近くの森を散歩しているうちに、道に迷い、15分の予定が、1時間半かかって、やっと帰りついた由。みんなほっとすると同時に、大笑いになった。
アンナの夫君のコンコウ氏は、
「あんな小さな公園みたいな森で、どうやって迷子になるんだ! 信じられない!」
と、盛んにジョークを飛ばして呆れていた。
バスは2人を拾うためにデッカスヴァルドへまわり、やっと2人がへやから駆け下りて来た。バスに乗りこむと、2人はそれぞれに謝った。 夫君達は最後まで悪びれず、何も言わなかったことに、夫は感心していた。
「日本なら、妻の代わりに夫が謝るだろうね。個人個人が主体性を持って いるから、自分の責任で謝るんだね」と。
アンナは私と同じ〈方向音痴〉らしい。しばらくは汗を飛ばしながら、迷子事件の説明をして面白がった。私の夫がいつも言うのに、「女性には道を尋ねないことにしている。今までにきちんと説明できた人は、ほとんど皆無に近いから」と言って、女性を侮辱するのよ、でも、私自身がそうだし、思い当たるものだから、反論できなくて悔しい、と私が白状して、アンナと共感しあった。
パンなどを食べながら、バスは草原、馬、羊、農家などのそばを飛ぶように過ぎ、ヴァール川を渡る橋を二度越えて、「ホイスデン」という小さな村に1:15に着いた。いかにもオランダらしいたたずまいの、まわりを掘りで囲まれ、風車も残っている村だった。
すぐにセントラールというカフェで、お茶を飲んだ。私は小瓶に入った 〈ガス無しスパブルー〉を頼む。これが自然水に近く、甘みとかソーダー水のような泡もない。
夫とアンナと3人で、小さな町並を拝見して歩く。VVV (観光案内所)で 英文の説明パンフレットをもらおうとしたら、45G(=2800円)と きかされ、諦めた。