(168) 誠意
せわしない玄関のチャイムに、岡さんが駆けつけると、豪華な縦長の荷物がでんと置いてあります。T氏からの花便りです。配達人が走り去った後、岡さんは箱を開ける楽しみを味わいます。
年に二度届くT氏の花鉢は、毎回花の種類も色合いも違っていて、期待を そそられます。
と同時に、開けて見るまでは強い気がかりもありました。この3,4年、花が無傷で届いたためしがないのです。
シクラメンのサンゴ色の花びらが、一枚残らず打ち傷の茶色いシミ入りとなっていたり、青い星を散りばめたようなエキザカムが、2~3日でみるみる変色したり・・。
岡さんは恐る恐る上箱をはずしてみました。バサッと花が倒れました。最悪です! 鉢から土ごと根が飛びだしていて、花茎は1本折れています。根を鉢に戻してやっても、残る茎1本きりのコチョウランは淋しげです。かわいそうだわ! せっかくの花も、そんなこととは知らないT氏も!
もう我慢も限界だわ。岡さんは思案して、決心して、送り先の店に電話してみました。
「申し訳ありません。うちも商人の端くれですから、信用第一に大事に手前どもでお届けしていたのですが、手不足のため、4年前から運送店に外注しておりまして、そんなことになってるとはつゆ知らず、ほんとうに申し訳なかったです。お知らせ頂いて有り難うございます。すぐにお伺い致します」
一時間後、店主みずから見事な一鉢を届けてくれました。岡さんはやっと胸が晴れました。言うべき事は言うべきなんだ、と改めて思ったことでした。