6章(4) 『寮物語 2-窓辺の少女-』完成
『寮物語・2』を3日前に送り出したので、あなたに、もう届いているはずです。今度は絵が良くなっていて、副タイトルの〈窓辺の少女〉の雰囲気が少しは出ていて、ほっとしているの。1冊目も打ち合わせをさせて欲しかったと,今更だけど、やっぱり思いました。画家さんが、作家と会って話を すると、プレッシャーになるので、会わないで書きたい、と主張したそう なの。でも、シリーズ物の場合には、後との繋がりもあって、打ち合わせがなくては、辻褄が合わなくなるよね。
1については3つほど、どうしても不満が残ってしまう。(1)表紙の天使の翼が、ぞっとする。あるわけない物をくっつけないで欲しい。(2)長田先生が愛らしすぎて、先生らしくなくて、まるでそこらの妊婦に過ぎなく 見える。(3)絵をもう少し丁寧に、奥行きを深めてほしかった。
でも2巻目になったら、表紙も目次バックのキャロリングもすてきで、そうそう、この感じと思って、早速礼状を書きました。
K編集女史の話では、東販では、現在〈寒色系の表紙絵の本〉は、売れないと断言され、この本は〈地味すぎる〉と言われたらしい。でも、いいのよ。 この表紙は、136頁の文章にほぼ合っているもの。言葉で表せるイメージは各人無限の違いと可能性があるから、それを絵にするのは大変、と思うけどかなり肉薄してくれた、と思っています。
私の体調は、心配しないで。もう普通にやっています、学校は9日から休みに入ったし、採点は3日で終えて、今は食事作りだけ、皆の世話をしています。掃除や柱磨きは、気まぐれに運動不足だと思ったときに、踊りながらやってみるとか。手紙をせっせと書いて、2巻目が出たよ、と友人たちに知らせたりしてます。電話でおしゃべりする気になれなくて、こんなふうに手紙で書きたくなる、というのが、私の執筆欲の沸いている時なの。つまり外に発散しないで、黙りこんで、胸の中で呟いてるわけ。
で、十畳のへやのこたつで書き物をしてると、ミスタ・Mが斜向かいに勉強しに来るでしょ.やばいな、話しかけられるぞ、と警戒して、机の真ん中に、電気スタンドと文箱を並べ、そのこっち側に、大きなノートを立てかけて、バリケードを作って、むっつり書いてると、案の定、そのバリケード越しに声をかけてくるんだよね。
昨日、それで、うるさいな、もう、と言っちゃったの。やっと書き始めた時に,腰くだかないでよ、って。そのくせにね、彼の方がせっせと勉強してる時に、「新聞に載ってたあの短歌、覚えてる?・・妻、母、媼、牢に満つるとも、っていうの、あったじゃない、あの歌全部知ってるかな?」とかって聞いたりして、じゃましてしまうの。
昨日は,敵の機嫌は悪くない日で、笑ってすませてくれたけど、ご機嫌斜めの日は、怒鳴られたりもするの。まあ、そんな日は、めったにないけどね。私が大体、表に出さない方なので、彼が怒鳴っても、一方的に声の発散で終るけどね。面と向かってババババンと口げんかなんて、まずやったことない。私はやれないタチなんだ。
本の中の由紀は、何でも口にして言っちゃってるけど、実際の私は、人を傷つける言葉をなるべく避けてきたつもり。だから、読者からの手紙で、作者が即、由紀さんですね、と思い違いされると、驚いたりしてる。
私の心を持った女の子が、私にできなかったことを、やってくれてるのが 由紀、と言ったら、一番正確なのかも知れない。
あなたは『コロナ』という同人誌から脱けたのね。でも、作品というのは 思いがけない時に、向こうから訪れてくるよ。「もう書けない」とあなたが言うのを,何度も聞いたけど、『チコとそら飛ぶバッチン』『菜の花荘』も『ユッコと木と青い空』もできたし、これからも必ず生まれてくるよ。K女史が言ってたように「決めつけない方がいい」と思う。
それより、いっそ10代後半の、初恋の頃の話に、せっせと打ち込むといい。K女史の話では、来春以降に「青春もの文庫シリーズ」の新しい企画があるらしくて、私の『あじさい寮物語』も入れこむことになるかも、ですって。