『スノーグース』の話
立川図書館へ「おはなし会」を楽しみに行った。毎月必ず「文庫便り」を 送ってくれるNさんが、ポール・ガリコの『スノーグース』を45分かけて語ってくれるという。少し前に、図書館で文庫版と絵本版で、訳本を読んでみたが、絵本版では訳文の美しさと、絵が加わったせいの、間の取り方の よさで、涙があふれたほど感動した。文庫版の翻訳文とは違うな、翻訳者に よって印象は変わるのだとあらためて思った。
実際に、覚えて語る「おはなし」としては、1時間を越える作品を45分に縮める苦労をされたのがよくわかったが、ガリコが描きたかった「スノーグース」と主人公の最後の最後まで、心の繋がりのあった部分の方を削ってしまい、少女から娘に成長して、愛を知った娘の主人公への思いを口にして、彼の仕事を継続する姿で終らせ、ラブストーリーとしてまとめてしまったのが、とても物足りなく、残念に思えた。
背にコブがあり、片手が使えない一見醜い青年が、人里離れた灯台近くの
広大な土地を得、1人で暮らしながら絵を描き続けている。小さな船を持っていて、不自由な身で、船を操って魚獲りもしている。湿地帯に野鳥たちの餌場の囲い場を作り、多くの渡り鳥が毎年のように訪れるようになる。そこへ撃たれて傷ついた鳥を抱えて、少女が鳥を助けてもらいたくて訪ねてくる。男は手当てをし、その鳥がカナダから飛んで来る途中で仲間とはぐれて撃たれたのだと、少女に語り、美しい白いその鳥をスノーグースと名づける。少女は時折、回復していく鳥を見に訪ねて、餌やりを手伝ったりもする。
戦争は激しくなり、周辺の小舟などまで一斉に、ダンケルクの激戦地に追い詰められている英国兵を助けに出かけて行く。男は自分の船で6人は乗せられると出かけようとすると、娘に育っている少女は、自分もいっしょにと名乗り出るが、1人でも多く助けたいと男は断る。娘は鳥たちの世話に、何度も訪れるようになる。
そこから後は、戦場での男についての噂話の形で描かれるのだが、男の小舟とその上空を白い鳥が必ずつきそうように舞いとぶ姿が見えると、兵士たちは助けが来た、と喜び勇んだ。小船は何度も海峡を往復し、銃弾の嵐の中を奇跡のようにくぐり抜け、白い鳥と共に、多くの兵を助けるが・・・。漂う小舟に白い鳥がとまって、船底に撃たれて死んでいる男を見守っている姿を見た人の話が語り継がれる。
帰りを待ちわびていた娘は、戻ってきたスノーグースの姿に、男の死を察し、自分の彼への愛を悟る。彼の残した絵の見事な美しさに心打たれる娘の思いも描いて・・。彼の代わりにこの地で鳥たちを守ろうと決意した様子で物語は終る。
ガリコは世の人々から蔑まれて〈変わり者〉と見られていた男の、真の人間性を描いてみせ、彼とスノーグースの深い愛のつながりと、鳥たちだけでなく、戦場での兵士たちを危険を顧みず、救い続ける勇気と人間愛をも残したかったのだと思う。
後半のこの部分をこそ、語って欲しかった。娘が自分の愛に気づくのは、読者がこの男を愛おしく思う気持ちと重なって見え、大事なことではあるが、ラブストーリーそのものをガリコは描こうとしたのではなく、娘のしっかりと跡を継ごうとする姿に、読者が察せられるほどに描かれている感じがする。