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2章-(3) 同室Sは準備万端の人
● 私は106号室。いっしょに高幡不動参りをしたSさんといっしょだ。 彼女の旅行準備の話には、感心というより、度肝を抜かれた。「旅に出る」を前提に、何が必要かを徹底的に考え、準備したという。エベレスト登頂を 果たした、田部井さんの書物が、たいそう参考になったそうだ。
研究所勤めの夫君と、前期期末試験の近い大学生の娘さんと、高校3年生 の野球部部活最盛期の息子さんを残しての旅だから、問題はまず11日間の食事だった。
● 冷凍食品や宅配食品を、4人で事前にためしてみて、これなら我慢できるという物を選んで決めたり。その他、掃除を丁寧に家じゅう順にすませて いったり、家事の細部まで目配りして、ずいぶん前から取り組んだそう。
近所などの土産の数が多いので、もうすでにある店に手配して、帰宅すれば届くようになっていると言う彼女の手回しのよさに唸ってしまって、具体的にどうすればいいのかは聞き漏らした。
彼女の友人たちの例にならって、外国旅行するとは、誰にも告げずに出て きたが、嬉しくて言いふらしたくてたまらないのを、我慢するのが何より 辛かった、と笑わせる。
● 衣服については笑ってしまった。家族が出かけた後、ファッションショーをひとりで楽しみ、早くから大きなスーツケースに、きちんと詰めこんで おいた。せっかく外国旅行に行くのだからと、よそ行きっぽい服ばかり用意してあった。
ところが直前の「だんろの会」の例会時に、私や他の人達が、泥棒に狙われないように、金持ちに見えないように、なるべく目立たない、薄汚い格好をして行こう。どうせフットパスを歩くことが多いのだし・・と話しているのを聞いて、彼女はにわかに心配になって、Tシャツやポロシャツなどカジュアル物を、日数分だけ用意し直したのだって。私は逆に、彼女の用意ぶりに 恐れをなして、派手目の物を加えておいたのだ。
● 私の準備については、31年共に暮してきた、夫の姉と夫の母(91歳)が、夫と共に留守番してくれているので、何ひとつ心煩わせることなく、ただ 家計のお金を渡すだけで済むのは、本当に恵まれた有り難いことだった。 しかも、時々寝こむ義母が、この頃元気でいてくれたのだから。
こうして、32時間あった、長ーい1日が終った。11時30分就寝。