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5章 (12) 11月 新築祝いの品々

あなたから、大きな不細工な包みが届き、それを開ける時の、ワクワク気分はこたえられないね。予告はされてたけど、開けて見なくては、何なのか  わからないものね。

まずは『キリスト物語』はべつとして、家庭生活に毎号載ってたエッセイを集めた『すてきなあなたに』、これが欲しかったのよ。大ファンだったの。自分で買って読んだり、友だちにプレゼントの候補にしようと、いつも思ってたの。あちこちに、料理のヒントがあったり、寒い日の〈あったかいミルクテイ〉とか、何気ないのに、おしゃれな感じがあって、真似してみよう、と思える。ありがとうね。嬉しい楽しみが増えました。余分に入ってる、お菓子や便せん類、ぬいぐるみのウサギまで、ありがとう!

ミスタ・Mの数学のお弟子さんからは、見事なベゴニアの花鉢が2つ届き、オレンジ色のきれいな色で、葉っぱの色まで暖色系なの。軸がしっかりしているので、きっと長く咲き続けてくれると思うわ。私はこの花が大好きです。香りが少なくて、目に鮮やかで、しっかりした花だから。匂いのすくないシクラメンとどっちこっちくらい、1年の大半は、玄関に飾っているの。

ワインセットを下さる方や、玄関マットを下さったり、座布団5枚を届けて下さったり、新築祝いって、いろいろ考えてくださるのだ、と感激しました。

2日の講談社パーテイが遅めでしたが、届いていますよね。私は同じ日に、明大前の喫茶店で、バオバブの人たちと打ち合わせがあって、その後、少し暇つぶしをして、5時に間に合うように出かけるつもりです。

K編集女史は、地位が上がったせいなのか、私の『あじさい寮物語・2』から、編集担当が代わって、M・F編集者になったそうで、2日の会場でご挨拶になりそうです。お2人の連名で、ゲラが送られてきましたから。

あなたの「韓国旅行記」を読ませて頂いて、言葉を勉強する努力を続けて いて、よかった、少しは通じたそうだから。あなたが『はるかな鐘の音』を書いたことで、過去への拘りが吹っ切れて、韓国への旅を何度もできるようになって、よかった。作品を書き上げることで、自分の心を納得させて、次の行動に移せるということは、その作品は生きている、という証に思えました。心血を注ぎ、自分の思いを託して書き上げたことだから。

旅先の食べ物で、記憶が蘇って涙をこぼしたり、同行の作家たちやK女史とも別れて、ひとりで〈鎮海〉へ行くあたりの、背景がよくわからなかった。「戦争末期に住んでいたのが、ひとり」とか「ここへ来た最初の数日、ホームシックで泣いた」「休暇をもらって帰省」「京城=ソウルに送り返された」などなど、つながりがわからない。あなたは若い頃、家族から離れて、〈鎮海〉でしばらく過ごしていて、そこが懐かしい恋しい場所になっていて今回の旅でひとり戻ってみたのね。再び訪れた地への溢れる思いは、伝わるけど、どんな背景があったのだろう、と謎でした。

私は釜山生まれなのに、幼すぎたために、その地があなたの鎮海ほどの磁力になっていない、むしろ、倉敷の小さな村の方が私の故郷なのだと、再発見しました。

私、ときどきどうしようもない〈寂しさの穴〉みたいなものが胸の中にあるのを感じます。ことに秋から冬にかけて、それがじわじわと口を開けてきてミスタ・Mや子どもたち、友人の誰彼を頭に思い浮かべてみても、埋め切れない寂しさなの。ひょっとして〈うつ病〉の気があるのかも。あなた、そんなことはありますか?

あなたはわたしのことを、激情型で感情の起伏が大きくて、人の何倍も生きてる感じ、と受け取ってる節があるけれど、その言葉はそっくりあなたにも当てはまるのでは、と思えます。何かを書き始める時の集中力や、精神の激しさは、あなたの方がずっと深く強いのかもしれない。旅行をして、帰るとすぐに必死で全てを書き残す、という作業も、あなたの情熱姓を表していると思う。

おうちが少しずつ整っていくのは、気持ちがいいです。でもこれから20年、借金を背負って、台所は火の車です。
月々の払いは6万ほどなので、ミスタ・Mがぶじ長生きしてくれることを期待して、頑張っていくつもりです。
お元気でね。

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