ツナギ8章(5)一難去って・・
揺れはその後も何度か続いて、その日は崩れをなんとか手直しだけすませて、皆で洞に戻った。オサはゲンとシゲに支えられて歩いたほど、腰と足首が痛むらしい。
夕食時に、じっちゃがこんなことを言った。
「あの揺れで、家が崩れなんだとは、高台の森の粘る土の上に建てたおかげかもしれん。あれは名案じゃった。大揺れに潰れん家を作っておるとは、6代前のゴンじいに自慢できるぞ」
それを聞いて、皆がおう!と喜びの声を上げた。オサは元気づき、ゲンは嬉しそうだ。最初に言い出したのはゲンだったのだから。
じっちゃはその日も編み続けていた縄の山を引き寄せて、手斧である長さに切り始めた。
「今度揺れても落ちんように、まずはこの縄で身を守るんだ。こうやってな」
じっちゃは自分の腰のまわりに縄をまわし、前を何かに結びつける仕草をしてみせた。
「明日、もう少し幅広に作ってみるか」
モッコヤとウオヤがそれを見て、同時に叫んだ。
「そりゃありがたい! 落ちる心配せんですむわ」
ツナギにもすぐにわかった。縄で自分の身を垂木に結わえながら、作業をするのだ。1歩動くたびに、縄をほどいて移動し、また結わえることになるが、それでも落ちてけがするよりはましだ。
「揺れがなけりゃ、余分に縄を使わずにすむのだが・・」
と、オサがつぶやいた。じっちゃは静かに言った。
「いや命が大事ぞ。今起こってる事を、どうやってやり過ごすか考えぬいて、工夫してやるしかない。先祖たちは皆そうしてきた。新しい事が起こっても同じだ」
オサはうむと唸って、深くうなずいた。
オサとトナリの打ち身には、ヤマジのババサが乾燥した白いキクの花を、粘土で練って手当てした。
翌日からまた作業は続けられた。揺れは時折小さく襲って、皆を緊張させたが、それでも手は休めなかった。ツナギは背負いかごに土入りのカメを入れて、梯子を上るようにすると、楽になり、作業がはかどった。他の者もまねをして、1度に多くの土を運び上げることができた。
風は日ごとに冷たくなり、雨が続く日もあった。そんな日も、皆で仕事場に行き、屋根に拭くアシやカヤの茎を束ねたり、泥土に切った干し草を混ぜたりした。屋内の真ん中に大きな炉を掘って、石で囲って火床を作り雑木(ぞうき)を燃して湯をわかした。
ツナギは少しずつ仕上がっていく家が、誇らしかった。
ところが、また思いがけない出来事が起こった。
朝早くツナギが〈日にち守り〉の小石を並べて、奥の秘密の部屋から戻りかけた時だった。暗い1の広間でうめくような、もがくような音が聞こえた。
目をこらしながら、手探り足探りで、音の方へ近づいてみると、上掛けのござが揺れている。
「だれ? どうかした? 痛いのか?」
ささやき声で問いかけても、ござは揺れるばかり、声もない。添い寝していた女の人が目を覚まして声を上げた。
「ソル、どうした? 苦しいのかい! どうしたのよ!」
2のカリヤの妻だった。ソルか。何も言えないはずだ!
「ヤマジのババサを呼んでくる!」
ツナギは誰かれの足を踏んづけながら、いろりの部屋へと走った。あちこちで目を覚ます気配が広がっていた。
気配はこちらへも伝わっていて、じっちゃの声がした。ヤマジのババサも起き上がっていた。
「こっちへ抱いて来た方がいいぞ、ツナギ。そう言って来い!こっちはあったかくして、たいまつをつけておく」
と、じっちゃが言った。ババサがつぶやいた。
「何か妙な物でも食ったか? 森で食うようだし・・」
ツナギはあっと思った。それなら、ジンも連れて来なきゃ。また1の広間へ走った。
ババサは早くも薬草の入ったカゴを引き寄せていた。
たちまち、いろりの部屋は病室に変わった。皆もざわざわと集まってきた。オサは今も足を引きずりながら、人々の間で心配げに見守っている。
ソルはいろり近くにゴザにくるまれ、横になってももがいたり、ぐったりを繰り返している。ジンは寝ぼけまなこのまま、じっちゃや兄のシゲに問われて、まともな答えが出せずにいる。