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8章(3)『閉ざされた時間のかなた』に

このところメチャクチャ本ばかり読んでいます。中でも面白かったのが
『とざされた時間のかなた』ロイス・ダンカン作、でした。エドガー・アランポー賞のジュニア部門賞をもらったそう。あらすじを書いて見るね:18歳の娘の父親が、新しい奥さんをもらったので、夏休みに初めて娘は会いに行く。新妻には連れ子の男子と女の子がいて、娘はそのうちに、継母親子3人に、自分が殺されることになっているのに気付く。その義母と子ども2人は、実はすごい年寄りで、ある術によって、永久に年をとらない。母親は常に35歳のまま、男子は17歳のまま1cmも伸びない、女の子は美しくなる前の、みっともない、いらいらした13歳のまま、永遠に変わらないことがわかってくる。

アメリカ南部の古い屋敷に、金持ちの男性と再婚しては、戻って来て、事故でその男性は死に(というより殺して)母子は遺産をごっそり受け継いで、よその土地へ行き、何十年かのうちに、次の世代の母子のような顔をして、また別な男性と帰ってくる形を、何度もとっている、というわけ。だから、ヒロインの女の子と父親は、財産をねらわれて殺される予定のわけで、スリルもあるけれど、とても実感的で、いかにもありそうに感じられるのは、その3人の母子が、自分の役割に、もううんざりしている部分が、描かれていること。

母親は永久に育ち上がらない子ども達を抱えて、この世をさまよい歩かねばならないし、お金は獲得しなくてはならず、策を練らねばならない。男子は父親なり、その家族を事故に見せかけて、殺す役目をするのがいやで、最初の頃は、もう1人いた男の子が自殺してしまう。女の子は、とにかく13歳の中途半端から、永久に脱けられない。

読んでいると、なるほど、人生の全てが一度しか起こらないものであり、順に年老いていって、消えて行くことが、むしろ恵みであることを納得しました。

この母親がなぜそんな術を受けたかというと、最初の夫が浮気して、相手の女に談判に行ったら、18歳くらいの若い怪しい女で、ブードウ教とかいうその土地の宗教の秘儀を受けて、実は今52歳だが、18歳のまま、年を取らないでいられる。ご主人をしばらく貸してくれるなら、その秘儀を授けてあげよう、と言われて、取り引きを持ちかけられる。母親は年取って、醜くなるのを極度に怖れていて、その話に乗る。自分だけが若いままでいると、子どもたちが年取ってしまうので、その時の子どもの年齢のままで、秘儀を受けさせた。

人生は移ろいゆくもの、次に何が起こるか分らないもの、成長していくなり衰えて行くなりしていくのが、自然なのですよね。

最後は息子が母を道連れにして死に、13歳の娘だけが、ヒロインの女の子を助けるために残って、これからもずっとその娘のことを、面倒を見ることにしよう、というところで終るのだけど、そんな人が本当にいるのかも、と思えてくるから、ふしぎでした。やっぱり筆力ですね。

長々と書いてしまったのは、あなたがこの頃読んでるのは〈宗教書〉だけ、とあったからだけど、そう言えば、あなたこの本を、読んだことがあったのでしたね。わあ、忘れてた!  今更恥ずかしいけど、書いてしまったから、このまま送るね。東野圭吾の『変身』が面白かったのに、そっちにすればよかった。脳を一部移植された青年がどうなっていくか、という話。『アルジャーノン・・』は、図書館の順番待ちなので、どう違っているか、楽しみ です。

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