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(213) アクラの木

小学生の頃、引越しした家の庭に、忘れられない木があった。平屋の母屋よりも堂々と高く、頑丈な枝を無数に差し伸べていて、8歳の女の子にも登りやすかった

梢はこれ以上伸びないように、切りとめられていたので、枝が平らに広がって、そこに座ると、手のひらの上に乗せられているようだった。

その頃学校をよく病欠していたが、そんな日も、その木の上に座らずには いられなかった。

「あんなところに、登ってらぁ!」

「ずる休みしたな!」

すぐ近くの道を帰る友だちに見つかって、首をすくめたものだった。


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その後、その屋敷の庭木すべてが切り倒され、更地として売りに出される時、その大木も倒された、と知らされた。あの木の名前は何だっただろう、と知りたくなったのは、八王子に住み着いてからだ。

倉敷の叔母は「あれはアクラの木じゃ」と、辞典にもない名を挙げて、私を煙に巻いた。
病床にいた父は「あれはモチの木じゃ」と断言した。

私は半信半疑だった。父は物忘れがひどくなっていたし、あれほど見事な モチの木を、東京では一度も目にしたことがなかったからだ。

その父が亡くなって、葬儀の後、泊めてもらった叔父の家に、そっくりの大木があった。

「うちの宝の、300歳のモチの木じゃ。ここらではアクラとも言うが」     と言った元校長の叔父の言葉に、長年の謎が解けた。          と同時に、私が一時期住んでいた屋敷の、350歳は越えている、ときかされていたあの古木が、開発のため簡単に切り倒されてしまったことが、残念でならなかった。

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