ツナギ7章(4)苦い再会?
大広間を持つ大きな1軒目の家が、着々と進められていた。土台を方形に土を掘り起こし、その土も大事にためてあった。屋根のアシやワラの間に加えるのと、雨水が流れこまないよう、家の外の低い壁用に使うのだ。土は粘土質なので、掘るにも柱を立てるにも難儀だが、丈夫な住まいになりそうだった。
じっちゃが家作りの現場を見たがるので、ツナギはサブに手伝ってもらい、じっちゃを支えて新しい広場へと、ツナギの近道の坂を下って行った。
ふと見ると川の上流から、イカダが近づいて来ている。男が2人、棹(さお)をあやつり、ひとりは真ん中に座って、何かを抱えている。イカダは皆で作った木橋の下を、3人共に寝そべるように身を縮めてくぐりぬけ、通り抜けた。
3人はあたりを見回して、遠く聞こえてくる槌音、かけ声などの物音に驚いているようすで、イカダを岸に寄せてきた。座っている男が、ツナギたち3人を見つけて、声を上げた。
「あんたら、いつ、どっから来られたんじゃ?」
ツナギははっとして、じっちゃを見やった。じっちゃが目でうなずいた。
冬の終わり頃に、洞へ来たあの時の連中かもしれない。声を出すまい、あの時の子どもと見破られまいと、ツナギは口を固く結んだ。
じっちゃが答えた。 「わしらは9代前からここに住んでおる。あの大揺れと海の水に襲われた後、この1年なんとか生き延びてのう・・」
男たちは顔を見合わせた。棹を持った男が声nを荒げた。
「あの洞で、わしらを謀(たばか)りおうたな! 許せんっ! 食い物を隠しおったんじゃろが」
やっぱりそうだ! ツナギは顔を伏せようとした。その時、向こう岸の坂道を下り、シオヤの親父とヤマジが何か用事でもどってくるのか、木橋を渡ってきた。ヤマジは鉄の斧をかついでいる。ヤマジは男のドラ声に向かって、大声でどなり返しながら、近づいて来る。
「何だと? よそ者に、何のかのと言われる筋合いはないわ!」
男も負けてはいない、すぐに激しく言い返した。 「何じゃと? 洞に隠れて、わしらの物乞いに答えなんだろが! 困っとう時、助けるのが人の道じゃろが!」
すると、じっちゃが2人をなだめるように言った。
「あん時、洞に食い物なぞ、ありゃせんじゃった。はやり病で死人も出てな。助けようにも、助けられなんだ。ひどい時じゃった。命拾いして、こうして生き残れたのが、ほんまにふしぎなほどじゃ」
イカダの真ん中に座っている男がうなずいて、しみじみとこう言った。
「わしらもおんなしじゃ。ほんに生き残れただけで有難いことよ。セキよ、そう言い立てるな。助けとうても、助けられん時だったんじゃ。それにしても、こげんによう盛り返せたのう」
みな、死んだと思うとった・・と、もうひとりの、棹を持った男がつぶやいた。セキと呼ばれた男は、肩の力をぬいて、気まずそうに上目づかいにこっちを見た。オサと見える真ん中の男が続けて言った。
「わしらは、朝暗いうちに出て、この川上の山辺(やまべ)村から来たんじゃが、海へ行けば塩が買えるかのう。わしらは、代々村にある塩山で暮らしておったが、あの大揺れで塩場が埋もれっしもうて、ようよう掘り出した処も尽きてしもうて、冬までに塩を手に入れんと、村はおしまいなんじゃ」
その気弱さを見せた正直な物言いに、ツナギは感じのいいオサだと思った。その間に、シオヤとヤマジはじっちゃの傍まで来ていた。じっちゃがヤマジの斧を見ながら2人に言った。
「海辺の頭領は、秋に塩を寄こせと押し入られて以来、こんげな鉄の武器で用心しておって、新顔に塩を分けてくれるかのう」
山辺村のオサが、抱えた壷を示しながら、こう言った。
「わしらは他にはない血止めや、薬草や、クマとシカの肉をいぶして持って来たんじゃが、そげな物じゃ無理かのう」
すると、ヤマジがシオヤを突きながら、穏やかに口を出した。
「いっしょに行ってやれよ。冬用の塩を買う頃だろが」
シオヤはすぐにうなずいた。
「ウオヤと行くことにして、材木も用意してある。イカダに組めば、今日にも行ける」
山辺村のオサが元気づいた声を上げた。
「ありがてえ、そうしてもらえりゃ、村中が助かる。イカダ作りは、わしらも手伝わせてくりゃれ。のう、セキとモギ」
2人が棹を置き、3人そろって岸に下りた。セキはすっかり穏やかに静まっていた。
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