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(2) なぞの手紙

一郎は、ふるえる手で、メーターボックスのうらに止めた、自分のうちの 301のカギを取り出しました。ドアを開けると、むっとした空気がおそってきました。海水のふくろの中で、ヤドカリと小ガニがもがいています。 息をつめて、へやをかけぬけると、ベランダへの戸を、あけはなしました。

きゅうに、海水のふくろを、投げ出したくなりました。お兄ちゃんにあげたくて、電車とバスをのりついで、だいじにかかえてきたのに・・。空っぽの植木ばちの中に、ふくろのままほうりこんで、後も見ずに、子どもべやに かけこみました。

しっかりとにぎりしめていた紙づつみを、おそるおそるあけてみました。 中に2通、手紙が見えます。1つはヨットのついたふうとうに、イチロくんへ、と四角くかちっと書いてあります。もう1つはお母さんあてらしく、 ふつうのふうとうです。

ヨットのふうとうの中には、たった1まい、絵地図が入っていました。

〈やなぎマンション〉とかいた、10かいだてのたてものがあって、301のところに〈げんざいちーイチロ〉とあります。そこから、赤い矢印が  1本、くねくねとのびて、おりていきます。ろうかから、エレベーターを とおって、下へ下へ、1かいのかいだんのうらへまわって、〈?〉のしるしで止まっていました。

一郎はむしゃくしゃして、紙切れをほうりなげました。

(なんにも、わかりゃしないじゃないか。サンダースのことは、すっかり、わすれちゃってさ)

やたらに腹が立ちます。そのくせ、むねの中から、うっうっとせり上がってきて、なみだのやつが、かってにあふれ出そうになります。べそをかきかき、ベッドをなぐりつけていると、ドアの方から、お父さんの声が、きこえてきました。

「やれやれ、重かったぞ。おじいちゃんはたくさんつめこんでくれたなぁ」

「田中さんは、おるすみたいね。お魚を生きのいいうちに、さしあげたいのだけど」

一郎はたまらなくなって、へやをとびだすと、お母さんあての手紙だけ、 居間のテーブルの上に放り投げて、玄関へ走りました。

「おいおい、もうあそびに行くのか、げんきだな、一郎」

お父さんののんびりした声が、ろうかまで聞こえていました。

いつのまにか、エレベーターにのって、あの絵地図にあった、1かいの  かいだんのうらへ、むかっていました。ななめのかいだんの下は、ものおきになっています。3りん車、うば車、ダンボール箱、がらくたが ごたごたとならんでいました。

正面のかべのそばに、見なれない 青い自転車がありました。

近づいてみると、みがいたばかりというように、テカテカ光っています。でも、よくみると、あちこち へこんでいて、きずだらけで、見おぼえがありました。

(なんだ、お兄ちゃんの ボロ自転車じゃないか)

〈?〉って、これか? 一郎は、がっかりでした。

ふっと、思い出しました。きょねんの春、お兄ちゃんと2人乗りして、サンダースのれんしゅう場へ、はじめてつれて行ってもらった時のこと! 長いきゅうな坂道の下の、ダイコン畑に、この自転車で つっこんだのでした。

トオル兄ちゃんはひたいに、一郎は足とうでに、大けがをしました。自転車はもちろん、坂の下の畑のさくにぶつかって、空をとび、きずだらけになりました。

あれいらい、2人のりで、坂道を下るのは、やめにしました。

そのかわり、お兄ちゃんは、なおった自分の自転車で、一郎にのりかたを、おしえてくれました。24インチのその自転車は、ちびの一郎には、大き  すぎます。でも、とっくんをつづけたおかげで、いまでは、お兄ちゃんを  のせて、走れるほどです。

一郎の新しい自転車が、千葉からとどいたら、すぐにも2台の自転車で、 お兄ちゃんと、れんしゅう場に行けるはずでした。

一郎は、ものおきの中を、すみからすみまで、のぞいてみました。ほかに ほしいものはありません。絵地図の中の〈?〉とは、やっぱりこの自転車 みたいです。

(いらないや、こんな古いの!)

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