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2章-(7) 『トムは真夜中の庭で』の概略

◆◆「時」に関するファンタジーは多いが、この作品はイギリスで20世紀最高の傑作と言われ、カーネギー賞を得た作家達の作品の中でも、最も秀でている、と J. R.  タウンゼンドは評している。

●「弟ピーターがはしかとなり、トム・ロングはアラン叔父の車でグゥエン 叔母のアパートに、避難することになる。狭く庭もなく運動不足と、叔母のご馳走責めで、トムは夜眠れない。元は邸宅であったこのアパートの、ホールの大時計は3階に住む家主バーソロミュー老夫人の大事な品だが、時間通りに鳴ったことがないと叔父は言う。

その夜、時計が13鳴った!えっ、今日だけは13番目の時間があるんだ!と、トムは急かされたように裏口から外へ出ると、広い庭に花壇、ヒヤシンス、温室もあり、ホールに戻ると古い品々や女中が見えるが、次第に消えていく。あれは幽霊だったのか?
翌日、あの見事な庭がなく、トムは泣いてしまう。家主のおばあさんが降りて来て、大時計にねじを巻き、また3階へ戻っていく。おばあさんは毎夜、昔の夢を見ていた。

夜、また時計が13鳴る、トムは庭に出て、イチイの木、牧場、高塀、低塀、日時計など明け方近くまで遊び、へやに戻ると12時6分。たった6分の庭巡りだったとは! 時間とは何? 毎晩庭を巡るうち、この家の息子たち3人にはトムが見えず、幼いハテイには見えるとわかり、トムはハテイと庭遊びを始める。

● ハテイがガチョウの件で花壇や庭を汚したため、この屋敷の伯母に「恥さらしの嘘つき、出来損ない」と罵られる姿にトムは泣く。もっと幼いハテイが黒服姿で泣く姿に、親なし子で伯母に引き取られた子と知るトム。

庭では〈時〉は行ったり来たり。ハテイと幽霊はあんたよ!と喧嘩も   しあう。トムは弟のピーターに、庭とハテイとのこと全てを書き送る。

ハテイはイチイの木の中に自分の家を造り、これこそ自分だけの家と夢中になるが、枝が折れて墜落、大けがに。庭師のアベルにトムは「さっさと地獄に、うせやがれ!」と怒鳴られ、庭から閉め出される。ハテイが生きているかと涙を流すトムに、アベルが「ハテイは生きてる」と伝えてくれる。

ハテイを探して屋敷の2階の子ども部屋へ行くと、青年に育った息子ジェイムズが、母親にハテイを屋敷外で友と遊ばせるよう進言するのが聞こえる。トムはハテイを見舞うが、ハテイもジェイムズ同様大きく育っていた。

●トムは風邪を引いて寝こみ、帰宅を遅らすことに。庭をもっと見たい、 ハテイに会いたいトムは喜ぶ。

トムの母とピーターからの手紙で、この週末の「土曜」に汽車で帰ることになる。「時間」はトムの友だちでもあり、敵でもあった (p.239)

火曜の夜、庭園は雪で、周辺に兄や友人達も見える池で、ハテイはイスに  掴まって滑っていた。ハテイに頼み、大時計を開けて貰い「もう時間がない」と書かれた文字を見つける。「黙示録第10章1~6」に記してある言葉だと、ハテイに教わる。

● トムはアラン叔父と「時間」について論争するうち、自分で気づいていく「人間はそれぞれ別の時間を持っている。だから僕はよその人の時間の中へ入っていけるんだ。ハテイの側から考えると、女の子の方が先に進んで、僕の時間に入ってこれる。その子には未来に見えているけど、僕には現実なんだ」。トムは時間の性質について考え出せたのがうれしかった。 (p.257)

トムはハテイに頼む。「スケート靴を、寝室の戸棚の秘密の床下に隠しておいて」と。木曜の朝目覚めて、床板の下を開けると、ハテイが靴を置いてくれていた。

●トムは「時間」の問題の、完全な解決が思い浮かぶ「13時を打つのは、12時より後の時間は普通の時間の中にはない、限りのない時間なのだ・・庭でいつまでだって遊んでいられる。庭園と家族を手に入れられる。庭園にいつまでもいよう」と。

スケート靴を手に、庭へ出るとイギリス全土が氷結の日で、ハテイとトムは2人で1足の靴をはいて、下流へ向けすべり続ける。イーリー大聖堂の近くで岸に上がり、大聖堂に入る。この時トムは「72歳で〈時間〉を〈永遠〉と取りかえた紳士ロビンソンの墓碑銘」を見つけ、自分は彼をまねしているようだと思う。

一方、ピーターは兄からもらった大聖堂の葉書を見ながら眠りこみ、いつのまにか聖堂の兄の傍らに立っていた。「ハテイはどこに?」とピーター。「おまえの真向かいにいるよ」「あれはハテイじゃない、おとなの女の人 じゃないか」と、ピーターは言うと、薄くなって消える。

トムとハテイはスケートで、カースルフォドへ戻ろうとした時、川岸にいた人が「バーティ(バーソロミュー)2世」と名乗り、ハティも兄たちの友の1人と気づく。彼の馬車でハテイの家まで送ってもらううちに。2人は親しさを増して語り続け、トムは眠ってしまう。「庭園はまだちゃんと残っているが、ハテイの時間の方が、トムを出し抜いて、すっかりおとなになっていた。ピーターの言ったことは本当だった」p.303

● 金曜日の朝、トムは家のベッドでぐっすり眠っていた。叔母に 起こされ、トムは「イヤ!いまはまだいや!」と怒鳴って、叔母を驚かせる。「明日はうちへ帰れるのよ」と叔母。

今夜がトムにとって最後のチャンスだった。「庭園の中の時間は後戻りできるわけだから・・また小さな女の子に戻っているだろう・・ハテイといっしょに遊ぶんだ」

その夜、庭へ出ると、真っ暗。駆け始めると何か金属にぶつかり、ひどい  音を立てた。変な臭いは木塀のクレオソートの臭い。庭はアパートの人達がゴミ箱などを置く狭い庭だ。あの庭がない!トムは広間に逃げ帰り、大時計の傍で泣きじゃくる。誰かが階段を下りて来る。トムは金切り声でハテイに助けを求めて叫ぶ。「ハテイ!   ハテイ!」

その声は3階のバーソロミユュー夫人の目を覚ました。60何年前の結婚式の夢を見ていた夫人を。アパート中の人々をも。アラン叔父は3階の家主に釈明に行き、家主に無礼な質問をくり返される。

●  翌日、アラン叔父は仕事を済ませて、午後にトムを家まで送ることにし、電報を父母に送る。3階の家主の夫人が「男の子を寄こしてくれ。夕べ人騒がせしたわびを言え」と言っている、とアラン叔父は困り顔。

「僕が行くのが本当だよ。ぼくはいく」と、トムは3階へ行く。老家主は 年取って小さく、しわくちゃだが、トムはその黒い目にドキドキする。 「トム・ロング」と名乗ると、「あんたは・・血肉もある本当の男の子だったんだね・・あんたは、わたしを呼んだんだよ、わたし、ハテイですよ」 その声にはやさしい、幸せそうで、愛情に溢れたひびきがあった。

● トムはすぐには信じられなかったが、夫人と語り合ううちに「黒い目は、確かにハテイの目だった。・・おばあさんの中に、女の子を思い出させる 身振りや、声の調子や・・表情があるのに気づき始めた」                            「あなたは・・ほんとうにハティだ!」とトムはささやく。おばあさんは  これまでの長い話をしてくれた後、「こんどはピーターをいっしょに連れて来なさい」と言い、トムは約束する。

昼の12時となり、アラン叔父と家へ向かう時間だ。さようなら、バーソロミューのおばあさん、とトムはかしこまって握手する。トムは階段を下り始め、ふいにもう一度階段を2段飛びで駆け上がって行く。

この2度目の別れの様子を、叔母はアラン叔父にこう伝える。
「トムが駆け上がっていくとね、2人はしっかりと抱き合ったの・・もう 何年も前からの知り合いみたいで・・トムは、相手がまるで小さな女の子 みたいに、両腕をおばあさんの背中にまわして抱きしめていたのよ」 [完]            

◆◆J・R・タウンゼンドは、この作品の卓越性は、「思想と感情の深さ」から生じている、と述べている。深い感動の残る物語だ。短くまとめたかったのに、まとめにくくて・・。

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