3-(2) 仕事はいっぱい!
火燃しなら得意だった。お兄ちゃんと交代でふろたきをしているし、 おかあさんが学校からおそく帰る日は、ご飯だけは炊いておいたりする。 でも火を見てるだけでは物足りない。
「ほかに仕事はありますか?」
自分から聞いておくことにする。
「なんぼでもあるで。8時ころ、みんな戻って来て、朝メシになるけん、 日傭さんのお膳を用意せにゃ。おむつを洗うたけど、干すひまがのうて、 そのまんまじゃ。裏の畑から、キュウリとナスとトマトを取ってきてぇし・・。せぇから、あっこの朝メシの用意もあるし・・。そのなべのお茶を、カメに移して冷やさんといけんし。ニワトリのえさをやるのと、卵を とるのと・・」
マリ子は目を丸くして、ひとつひとつうなずいた。でも、頭に入りきれない。とにかく動き出すしかない。ぱっと立ち上がると、そばにあったザルを持ち、裏の畑に飛んでいって、みずみずしいキュウリやトマトをザルいっぱいにもいできた。
広い畑には、トウモロコシやスイカ、黄色いウリや、大豆などがたくさん植えられていた。
それから、裏庭の物干し場に、オムツを干した。かまどの下の火も見ながら、七輪の上の鍋の番茶を、水瓶にひしゃくで移した。
台所の手前の右側に、8畳のはなれ部屋があって、そこが日傭さんの部屋になっていた。片すみに布団が積み重なっている。夜はここで休むのだ。
日傭さんたちの食卓が、その部屋から手の届くところに寄せてあった。 マリ子は靴をぬがずに、湯飲み、つけもの鉢、つくだにの皿を5人分、 どんどん運んだ。日傭さんたちも地下足袋 (じかたび) を脱がずに、部屋の 入り口に すわって食べるのだ。
次には、4さいのあっこちゃんのために、あさごはんを小さなお皿や茶碗に、少しずつよそった。ままごと遊びみたいだ。
そこへ、あっこちゃんが目をこすりながら、シュミーズ姿で台所の板場に 出て来た。マリ子を見ると、目がさめたみたいに、立ち止まって見つめた。
「借家の先生とこの、マり子おねぇちゃんじゃ」
おばあさんが言うと、あっこちゃんははにかんで、身をくねらせ、にっと 笑った。
マリ子はすぐにアッコちゃんのげたをそろえて、笑顔で両手を差し出した。あっこちゃんは引き寄せられるように、マリ子の腕にすがった。
「はよ顔を洗うて、ごはんを食べときねぇ。もうじき、おかあちゃんらが 戻るけんね」
おばあさんは力をこめて、あんこを練り上げながら、続けて言った。
「おねぇちゃんを田んぼに連れて行ってあげたり、おねぇちゃんといっしょに、まあちゃんのせわをするのんが、あっこの仕事じゃ」
あっこちゃんはマリ子の腕の中で、クククと笑った。それから、しゃんと してふりはなすと、流しの方へかけて行った。
林のおじさんがリヤカーを引き、日傭さんたちが積み上げたイグサを押さえながら、朝メシに帰って来た。〈なま〉はすぐに前庭に広げられた。庭を埋めつくすと、次は道路が干し場になった。
その間に、マリ子はおばあさんが盛り付けた、どんぶりごはんと味噌汁を、日傭さんの食卓へ運んだ。
林のおばさんは、さわぎで目をさましたまあくんに、台所の板場のはしで、お乳をのませている。無口そうな人で、マリ子には「よろしうに」とでも 言うように、頭を下げた。
おじさんは台所で、だまってごはんをかきこみ、自分でおかわりを3回 よそって食べた。このおじさんも無口そうな人だ。
マリ子は日傭さんが差し出すどんぶりに、おかわりを盛るのに大忙し だった。みんな3杯以上もおかわりするのだ。
おばさんは板場にまあくんを寝かせて、マリ子が見ている前で、オムツを 替えた。夕べ、おかあさんが手ぬぐいで教えてくれたけれど、自分で見て いる方がはっきりわかった。
まあくんは7ヶ月だって。まるまる太って、きげんよさそうにアブアブ吹いている。
それから、おばさんはすわって食事した。
「マリちゃんも朝はんあがられぇ」
おばさんがぼそっと言った。マリ子は大きく頭をふった。
「うちは、もうすませてきました」
「へぇでも腹へるでぇ」
おばあさんはぼたもち用のもち米を丸め終えたらしく、その手で、ザルカゴの中のご飯を取って、大きな3角むすびをにぎった。
「これでも食べときねぇ」
というわけで、マリ子はその日、1日5回食事することになった。