(34) オウム
お咲さんのタバコ屋の店先に、鳥かごが下げられました。通りがかりの小学生たちが、たちまち群がってきました。
「オウムだ、白いオウム!」
「これ、どうしたの?」
お咲さんは、ちょっとすまして答えました。
「息子がアメリカへ行っちゃってね。預かって、って置いてったのさ」
めんどうだからと、ひと悶着ごねたことなど、お咲さんはおくびにも出しません。
オウムがとつぜん、はばたいて叫びました。
「アンディ、アンディ!」
うわっ! しゃべった! このオウム、しゃべれるんだ!
そうなると、朝に夕に人垣ができます。子どもたちは、何か言葉を教えようと、てんでに声をかけます。でも、オウムはアンディ一点張りで、受けつけません。
「だれだね、いじめてるのは。やめてくれって、わめいてるの、わかるだろ。仲よしだった犬の名前しか言えないの!」
お咲さんはあまりのさわぎに、つい口出ししました。
そのうちにオウムは、キイーッと奇声を発し始めました。
お咲さんはとうとう、奥の静かなへやに、鳥かごを移してやりました。オウムが新しく覚えたのは、表の20号線を走る、車のブレーキの音だったのです。