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(187) 大きな種

一郎が食べ盛りの4年生の頃でした。野球部の練習を終え、おやつをめざして、まっしぐらに茶の間に駆けこむと、テーブルの上に頂き物の箱がありました。

「わっ、ビワだ!うまそう!」

ユニホームを脱ぐのももどかしく、とびつきました。

「いい匂い、大きな宝石みたいだ!」

大事に皮をむき、かじってみてがっかりしました。

「なんだ、種だらけで、実はたったのこれっぽっち!」

よけいにお腹がすいたみたいです。立て続けに5個平らげて、それでも物足りなくて、バナナで仕上げをしたのでした。

それにしても、チョコレート色の丸っこい種は、つやつやしておいしそうです。そのままゴミに捨てるのは惜しい気がして、一郎は畑のすみに、一番 大きな種をひとつ埋めておきました。


それから何年も経ち、一郎は大学生となって、遠い海辺の町で暮らしていました。

大きな種


ある日、母から荷物が届きました。洗剤や衣類のわきに、箱に詰めた小粒のビワが6個入っていました。箱の上にメモのような手紙がついていました。

「覚えていますか。あなたが昔植えたビワの木は、ずっと〈実をつけない 一郎の木〉でしたが、去年3個、今年は500個も実をつけました。ビワ酒を作ってあります。いずれ父さんと飲んでね。葉は日に干して、お風呂に 浮かべたり、麦茶に加えたりもしています。ビワは医者いらず、と言われている通り、あの大きな種には、力強い生命の素が詰まっているのね。その力を植えたあなたこそもらってください。あなたが元気でいられますように。  母より」                                                                         

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