(202) ミニケーキ
早苗はカバンの中からとりだした、瀬戸物に焼き込んだ小さなケーキを、 テーブルの上に並べました。
「あら、かわいい。そのカップはまた使えそうね」と、母が笑顔になりました。
「でしょう? だから、頂いてきちゃった」
早苗は得意そうに、その日のクリスマス会の話を、母にしました。大学の 近くのレストランで〈ミニケーキ食べ放題とコーヒー飲み放題〉の看板を 見つけ、早苗たち4人組は、そこで会をすることにしました。
みごとな日本庭園を眺めながら、20種類ほどあるケーキの中から、思い 思いに選んで、あきるまで食べあさりました。
「いくつ食べたの?」
「わたしは5個。マーコは10個も食べてた」
その後、メグがこのカップでプリンを焼きたいと言い出して、全員が賛成 したのです。
「それで、ひとり6個ずつ持ち帰ったってわけ?」と、母。
「マーコなんか10個以上よ。他のふたりもいっぱい」
母は呆れ顔から怒り顔に、それから哀しげな顔になりました。
「自分たちの立場からしか考えないのね。千円でそんなに欲張って、お店のことは誰も思わないなんて・・。
食べ放題というのは、〈その時・その場で〉という暗黙のルールがあるの。常識よ」と、母は言います。
頑固に、好物のチーズケーキにも手をつけない母に、早苗はしおれたの でした。
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