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2章-(1) ユトレヒト途中下車
翌朝、起き出したのは6時。今日はいよいよナイメーヘンへ向かう日だ。
朝食前に、この英文の手紙を読んで確認しておいて、と封書を夫に渡された。ナイメーヘン・カトリック大学から、5通目に届いた〈最終打ち合わせ便〉だった。
読んでみると、実にユーモラスで、微に入り細にわたって指示、案内、説明がされていて、感動的でさえあった。親切さと歓迎ぶりがわかるようで!
6月2日から7日までの5泊6日で、夫は200ギルダー、私は400ギルダーを支払えば、宿と3食をまかなわれるという。計38、000円ですむのだ。その上、ナイメーヘンの駅まで迎えに来てくれるとあった。
ホテルでの朝食は、昨日と同じで、さらに加わったものもある。イチゴ、 シリアルのハトムギ、マフィンなどを取った。昨日と同じ、ひとり旅らしい老婦人に出会ったので、「このあたりで、良い食事のできる場がみつかり ま したか」と尋ねると、首を降った。困っている表情だった。
食事が終ると、その老婦人が窓ぎわの私たちの席にやって来て、私のそばに腰を落すと、
「先程は食事を取り分けているときでしたので、ろくにお返事もしないで ごめんなさい。お昼のことでしたら、実は私は美術館めぐりしていまして、美術館付属の食堂ではセルフサービスで、とてもリッチな食事ができます。自分の食べたいものだけ盆にのせ、会計をすれば、後片づけもチップもいらず、あれはとてもいいと思います」と、教えてくれた。
なんと心配りの行き届いた方かと、私たちは感心した。食事時に話すことで、唾を飛ばしたりして、他人に不快な思いをさせないよう〈話しかけの時〉の心づかいをされる方だったのだ。
「同じ旅でも、美術館巡りという目的を持って、ひとりで計画して実行してるなんて、勇気あるし、素晴らしいね」と夫。ご主人を亡くされているのかも、と私は思った。彼女はすべてサンキュウだけで、通しているらしく、他は日本語でボーイさんに話しかけていた。
10時出発として、少しうとうとした。出かける間際に、小だんすの引き 出しを開けたら、英文の役所の〈警告文〉があり、アムスは美しい町だが、泥棒や犯罪に気をつけるようにと、あの手この手のやり口が並べてあって、笑ってしまった。
9時30分、チェックアウトする。受付の男性は数カ国語がペラペラで、 相手に寄って言語を変えながら、弾丸の如くしゃべり、驚き!
4のトラムで中央駅へ。切符売り場の表示はなく、うろうろしたあげく、 行列の後に並ぶ。驚いたのは、私の前の20歳くらいの青年が、空港までの切符を2枚買い、ホームの場所などを聞いただけで、おつりの2ギルダーをチップとして、売り子に返したこと。え?あれくらい訊いたことで、チップを払うの? 払うべきなの?
しかも、売り場の女性は、当たり前のような静かな顔で、回転受け取り機を回し、するりとコイン2枚を下に落し、サンキューもなし、だった。ふうん! こうするのか?
私はナイメーヘン行きを2枚買い、ユトレヒトで下車していいかどうか尋ねたが、いっしゅん迷ったものの、チップは渡さないままにした。(けち!)
4ホームから定刻になると、予告もアナウンスもなく、ベルも鳴らさず、 電車はするすると走り出す。改札はない代わりに、必ず検察係が回っきて、只乗り防止ををしているわけだ。日本もこうすれば、かなりの経費軽減できるかも。ただし、東京のあれほどの満員電車での検察は、不可能だろうな。それとカトリックの信仰が厚く、それが土台にある人間信頼のモラルがあるのかも、と夫と2人で話し合う。
窓の外は、真っ平らな平野が広がり、牧場、牛、羊、風車、森、用水路などが走り去る。運河の水面が列車よりも高い位置を流れている所もある。家々は屋根に窓がいくつも開いていたり、張り出し窓に飾りのカーテンが広げられたりしている。
ユトレヒトの駅は非常に広く、いわゆる駅ビルになっていて、日曜日のためどの店も閉じているため、どこが出口か見当もつかない。荷物をロッカーに入れて、迷った末に、当てずっぽうに出た処が旧市街だった。まさに中世の町に降り立ったような、見事な市街が静まり帰っていた。
ドム広場、ドム塔、旧教会、ユトレヒト大学など、ガイドブックに出ているあたりを散策した。店は全て休み、レストランも休みだが、バスで観光に来た西洋人グループが、おばあさん案内人の説明をうけていた。その話によると、ユトレヒトは1世紀ごろ、ローマ人が建設したとかで、とにかく古いのだ! レンガの道、レンガ造りの家々、道の下にも家があった。運河の水は流れていないのか、よどんでいた。
昼時に、「ドム・ブレイン」という軽食屋が開いていたので、サンドイッチを食べようと入ってみた。ハムサンド・チーズサンド・オニオンスープ・ジュース・ヨーグルトを注文すると、すべてがとてもおいしくて、満足! 日曜も夜12時までやっている由。パンは自家製でかりかりしておいしかった。
(画像は、蘭紗理作)