(70) ダンスパーテイ
「わたし、帰る」
早苗は華やかな会場に足を踏み入れたとたん、怖じ気づいて、メグのドレスの袖を引きました。
「だいじょうぶ、何とかなるって」
メグも踊れないくせに、身支度と度胸だけは満点です。
ワルツの曲が鳴り始め、あちこちでペアーが動き出しました。早苗は目立たないように、壁ぎわに退きました。
メグはいつのまにか、知らない相手と、踊りの流れに乗っています。
踊り方も知らないのに、来るのではなかった、と早苗は後悔しました。
踊りませんか、とだれかに手を取られ、早苗はおずおずと踊りの波に、すべりこみました。
でも、結果はさんざん! 相手も新米だったらしく、二人で靴を踏んづけ合って、すみませんの連発です。
曲が終って、ほっとして去りかけた早苗を、別な青年がさらうように、次の曲へと押し戻しました。
今度は、早苗が目を見張ったほど、うまいリードでした。軽く支えているだけなのに、次にどう動くのかを、腕と体が伝えてくれます。
早苗は別人のように曲に乗っていて、ダンスは楽しいと初めて思えました。ほっとして、壁ぎわにもどると、近くで、先程の二人が、顔を寄せ合って います。
「リード次第で変わるだろ、わかったかっ」
「はい、先輩、がんばりますっ」
と、おさえた低い声が聞こえて! 早苗は耳まで真っ赤になりました。
彼らの模範的実験台だったのでした。