(57) 帰省代わり
「500円か、高すぎるよ、戻そう」
パック詰めの豚肉を手に、3人の学生たちが頭を寄せています。
原夫人はちらちらと気にしていました。彼らのかごの中には、やきそば、 もやし、ニンジンと半分のキャベツ・・。なるほど、肉がなくては、献立は未完成です。学生たちは細切れハムの袋を選んで、未練そうにレジへ向かいました。あわれなクリスマスです。
にわかに、海辺の町にいる、大学生の息子の顔が頭をよぎりました。
先回りして会計をすませ、カウンターで袋に詰めながら、原夫人は学生たちを待ちました。
「あなたたち、帰省しないの?」
話しかけると、3人は素直に答えました。
「年末からバイトでかせぐんです」
「ぼくとこいつは、使い込んで、帰る汽車賃がなくなったんです」
原夫人は自分で詰めた袋のひとつを、3人のカゴにそっと移しました。
「いいんですかあ、こんなに」
学生たちはチーズや豚肉に元気づいています。
「サンタみたいだっ!」
「いただいちゃって、わるいな。でも、ありがたいね!」
三人は顔見あわせると、いっせいに声をそろえました。
「ありがとうございまっす!」
原夫人はうれしくなって、メモまで手渡しました。
「困ったら、電話して遊びにいらっしゃい。うちの人もきっと喜ぶわ」
息子が帰省せずに、友だちと海辺に居残って、スキーなどで年を越すと知って、気落ちした反動でもありました。