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5章 (5)5月:出版記念会の話

連休に私たち夫婦と義姉と3人で、高尾山にハイキングに行きました。上り1時間半、下り1時間の手頃な山です。人出がすごくて、頂上では、座る所もないほどでした。若葉がきらきらしていて、富士山が見えて、いい時期でした。

月曜の午後は、ふつうは学校の図書室に陣取って、調べ物をしたり、書いたりしているのですが、先日は、武川みづえさんと京王八王子駅で待ち合わせをして、ランチを共にしました。テーマは〈あなた堀内さんの作品群について〉だったの。

武川さんは5ヶ月ほど前に貸して上げた『ルビー色の旅』に、大変なショックを受けて、こんなに大きな作家を知らなかった、と感激して、次々にあなたの作品を読み続けていらしたの。「全集ができたら、全部買って読み直したい」と、ほんとのファンになって下さってるの。「安房直子さんも素敵だけれど、それよりもっと広がりがある」ですって。

彼女は知性の人、理知の人だから、電話口で話す言葉も、かなり高度な範疇の語彙で語られるので、私にはついて行けないこともある。彼女曰く「堀内さんには、宗教姓がある。流派を超えた宗教といえるものが」・・タマシイがどうのとか、難しいことを言い出したので、掴みきれなくて、いつかおはなしし合いましょう、と言ってあったのが、その日のランチとなったのです。その話は、いずれすることにしますね。

私の『あじさい寮』は挿絵の方が遅れていて、6月初めが校了になるので、本の出来上がりは7月になる模様です。

大石真先生はずいぶん前から、今年は遠藤さんの「出版記念会」をしなくてはね、と繰り返しおっしゃってる。仲間の人たちがお膳立てしてくれるのかと思っていたら、作者当人が、会場選びからすべてのお膳立てから、人寄せから、当日の収支決算まですべてやるそうなの。

私はドーンと気が重くなって、そんなのやりたくない。バオバブではやっていないし、やる気ない、と言ったのだけど、皆が「そうはいかない」というの。会場の話が出始めたので、私はついおなじみの西荻窪南口そばの「こけしや」の名を口にすべらせたら、「ホイ、そこに決まり!」だなんて、本もできないうちから、会場が決まるなんて初めてだなあ、と面白がるの。困った・・。

去年の秋、11月に、同じ大石会の上条早苗さんが、池袋のホテル3階で、国土社と毎日新聞社の後援で、40~50人集めて、出版記念会をなさったのだけど、それがいかに大変だったか、あの気の使い用は、もう2度としたくないと思うなんて、こっそり私に教えてくれて、ますます気が重ーくなってる。

バオバブでは、これまで西内ミナミさん、後藤啓子さん、わたりむつこさん、斎藤治子さんなど、絵本や物語を出版されているけど、どなたも「記念会」はしていないの。ただ、M・Yさんが自分でお膳立てして、有名な方達を発起人にして、「こけしや」で「出版記念会」をなさったの。その同じ場所で、私が自分でお膳立てしなくては、なんて、運命のいたずら、嫌悪感の方が強いわ。

万一開かれることになったら、誰よりあなたをお招きしたいけど、その約束をするより「記念会」そのものを止める方が、気が楽なんだけど・・。

今、武川さんの「宗教的」という言葉と、あなたの伯母様が「純子の書くものは、すぐ天と繋がっている」という言葉が、ぴたりと繋がることに気がつきました。深く読み取れる人は、感性の鋭さで、本質を読み取り、自分の言葉で感想を述べるのだけど、このお二人は、あなたの本質を捉えているのでは、と胸が震えました。

私ががさつにお付き合いしてしまっているお相手は、宮沢賢治にも匹敵する凄い人なのでは、とふっと考えました。あなたのことよ。凄い人の傍らには、引き立て役のボンクラがいるものだからね。私がその役を引き受けるね。

次男が「おかあさんは子どものまま、大人になってるね・・」について、「全ての子どもの通り道だと思う。こどもが大人になるっていうことは、そういうことなのね。うちの子も、そっくりのことを言ったし、他の子も皆同じような気分を味わい、あるとき目からうろこが落ちて、一人前になるのではないかしら。その時を持たない人が、マザコンになったりするんじゃないかな」という、あなたのノートの言葉に、なるほどと頷きました。「親はその時まで存在して上げることが、大きな仕事なのではないかしら」そうなのね。息子は順調に成長してるって、ことなんだ!

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