(94) 大好物
お正月のあいだ、パパの会社の同僚一家が香港へ出かけ、その間、飼い犬を預かることになりました。ドッグフードの大袋と一緒に、車で送られて来て以来、ジンベエは見るも哀れにしょぼくれていました。
朝子たちは、おせちを分けてやったり、散歩に連れ出したり、ご機嫌をとりましたが、前足の上にあごを乗せた、ゆううつそうな姿に、すぐ戻ってしまいます。
明日はもうお別れという夕方、ママは今年初めてのカレーを作りました。
外遊びから帰った健が大喜びで、カレーだ,カレーだ、わーいと、子ども部屋をはねまわりました。
すると、窓の外で、ワンワン、ジンベエもはねまわって、尻尾を振っているではありませんか。その姿を見てるだけで、朝子も健も嬉しくなって、いっしょにはしゃぎました。
「まあよく食べること!」
ママが、空っぽの鍋をのぞいて、呆れています。
「ジンベエにあげられないわ」
それで、朝子はドッグフードを、いつもよりぐんと多めに入れてやりました。
ところが、ジンベエはエサ鍋をひっくり返し、後足で土をひっかけました。それから、前足にあごを乗せ、目を閉じています。
カレーだ、カレーだ、ワーイと、期待をこめて夕食を待っていたのは、ジンベエも同じだったのでした。