5章 (3)3月 署名運動参加・文体
あなたの愚痴が聞けてよかったわ。私の気持ちに近いと思った。ほんとのことを書いてくれて、愚痴だって怒りだって、みっともない自分だって自由に吐き出して、ほっとしようよ。
「この頃の私、ほんとうにだめ。いたわられると、すぐに反撥するし、励まされると、逆に孤独になって、だあれも私のこと分ってくれないんだ、と思うし。いい人になるのって、難しいわ。・・人に弱みを見せるのがいやで、人の前では決して泣けない。姉たちの前でさえ、つっぱってしまう。のに、わかってもらえないとひがむのは、おかしいって、自分でも思う。まったく自分で自分をもてあましてしまう」
そうなんだ。少し前の私がそうだったわ。でもね、今私は引っ越し準備や、新築のことや、ごちゃごちゃ忙しい上に、〈署名集め〉の奔走に巻きこまれちゃって、人との接触が多くなってるから、自分の心に関わってはいられなくなって、元気になってるみたい。
高尾山という都下随一の名山に、トンネルを掘って、〈産業道路〉を作ろうという自民党都政のかけ声に合せて、八王子市長(つい2ヶ月前、僅差で自民党が勝ったの)が先頭に立って、押し進めているの。
あと3日後に2回目の「意見書」を提出できるのだけど、この書き方が難しくて、反対している人たちも、なかなかすっとは書いてくれないの。賛成派の人たちは、企業ぐるみで、社員たちの署名を集めて、「建設賛成・意見はなし・問題なし」で、いとも簡単に大量に署名が集まるの。
第1回目の「意見書」提出の時は、何倍もの分量の賛成派の署名が集まってしまったので、市長派は鼻高々で、「だからトンネル掘っちゃえ」ということらしい。八王子という盆地の街に、公害の車の排気ガスが、どんどん流れこんだら。光化学スモッグ発生の日が、うんと増えて、私はこの地に永住できなくなるわ。それで、夕べ、ミスタ・Mと2人で「説明会」に出かけて行き、署名集めに参加することにしたの。
意見書はこちらで仕上げ、ミスタ・Mにワープロで〈表〉みたいな書類を打ってもらって、住所と名前だけ書きこんでもらうことにしたの。私がぐるぐる一軒ずつ動き回るのではなく、数人の友人たちに数枚ずつお願いして、近所で集めてもらっているの。自然破壊と生活破壊、健康破壊が目に見えているものね。
一番頼りにしていた〈文庫〉を長年やっていて、顔の広い友人が、賛成してくれると思っていたら、夫君が自民党都議と従兄同士で、そちらに頼まれて「賛成派」の署名集めを彼女がしていたの。なるほど、政治とか経済とかについては〈しがらみ〉があって、自分の自由意志のままには動けないのだ、と思ったことです。
私たち夫婦は何より〈精神の自由〉が欲しいから、教員をしている部分があるのです。
今日はやたらにくしゃみが出て、きっと、あなたとK女史とで、私のことも話のタネになってるに違いないわ。
『寮物語』1冊目の「白いカーネーションのひみつ」の最終原稿をいじってるのだけど、自分であちこち気に入らなくて、つまりあの〈表現形式〉がよくないと思えて、うんざりしてる。ちょうど『桃尻語訳枕草子』流じゃないかと思えて。妹に送る〈手紙文形式〉だから、思いきり、しゃべり言葉で書いてるから、もうちょっときちんと書けるでしょうに、と思ってしまう。自分で読んでいて、自分の文体が恥ずかしいなんて・・。