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ツナギ9章(4)炉の数と・・
今では人数が半分ほどに減っているおかげで、食事どきは、じっちゃのいる炉のへやと、次の広間の半分ほどを使って、全員が座って食事できるようになっていた。
夕食は、いつもと同じ雑炊だ。少しの米と大豆と里芋に、干した青菜を刻み込んだ粥(かゆ)を、作業場から戻った男たちも皆、うまそうにかっ込んでいる。
モッコヤが大きな声を上げた。
「今日のあの炉作りは、うまくいったな。あの調子で、もう2つはいるなあ」
「いや、あと3ついるよ。真ん中の炉と合わせて、5つだ」
とウオヤが叫べば、あちこちでうなずく顔が見えた。
そんなに炉がいるのか、とおどろいているツナギの側で、ゲンが小声で 言った。
「広くて寒いからどうしたって、広間に炉はいくつもいるんだ」
そうか、そうだろな、ツナギもうなずいた。きっと干し草を切って、土に 混ぜ、石も使って、炉を仕上げているのだ。
オサも話に加わって、言い足した。
「今日やりかけたように、壁の内側を土で塗り固めていけば、寒さよけに なるが、土をそれだけ手に入れるのは・・」
「雪の下から掘るんじゃ、春を待つしかあるまい」
と、ヤマジが顔をしかめて、言った。
ツナギはすぐに思いついて、口を出した。
「外に出なくても、家の中の床を削って、床全体を少しずつ低くすれば、土はできるとおもうけど・・」
シオヤの息子がすぐに賛成して、言葉をつないだ。
「あの土を掘るのは力がいるけど、春を待つよりやりがいがあるよ。春に なって、もっと塗り足してもいいし」
ゲンもトナリの息子もシゲまで、うなずき合った。
じっちゃが首をかしげるようにして、言い足した。
「わしが聞いた話じゃあ、床が外の地面より低い時は、家の外回りに、溝を掘っておくといいそうな。雨水が家の中に入らず、その溝に流れて、川へ向かうようにな」
「それは後からでもやりますよ。なあ、みんな」
とゲンが声を上げた。シゲたちもうなずいた。
「若いのがいてくれて、よかったのう、ほんに・・」 と、じっちゃが寝床のかたわらに座ったまま、声を張り上げて言った。
モッコヤがまた声を上げた。
「これで、年を越しても、当分広間の仕事は、屋根の下で続けられるぞ。 ようし、がんばろうぜ!」
おうよ、やろうぜ! 声と同時に、皆が拍手で応えた。
「それはそうと、ソルとジンの子トンたちも、よく育ってきたな」
と、シオヤの親父は口火を切ると、続けて言った。
「ああ大きくなっては、子トンというのも合わないな。名前をつけたらどうだ?」
皆がいっせいに、広間との境のかべにもたれているソルとジンを注目した。
「ソルとふたりでもう名はつけたよ。子トンはララ、イノシシはモモって」
ジンが大声で言うと、皆が笑った。変な名前だな、とウオヤがまた笑った。
「変だけど、ソルはオレの口の中を見て、わかってくれたよ。それで、決めちゃったんだよ、なっ!」
とジンがソルに念を押すと、ソルが何度もうなずいた。
ツナギはすぐにソルに向かって「ララ、モモ」と、はっきり大きく言ってみせると、ソルがにこにこ顔で、声は出さずに、同じ口まねをした。
「今日はソルと、えさをいっぱい取ってきたよ、なっ!」
と、ジンがソルを見やると、ソルはそうそう、と話がわかったふうに、にっと笑ってみせた。
「ララもモモも、よく食べたよね、シイの葉っぱを、なっ!」
ジンはまた、ソルと顔を見あわせて、にんまりした。
「ほう、シイの葉がえさになるのか。よく気づいたな。名前は決めるし、 おまえたち、よくやってるぞ」
とオサがうなると、男たちはみなうなずき合って、ふたりをほめた。
「春が待ち遠しいのう。賑やかになるところを、わしも見たいものじゃ」
じっちゃが寝床に戻りながら、そう言った。ツナギはじっちゃがいつも寝る前に飲む、ヤマジのババサの薬湯を、いそいで持って行った。これはババサも飲んでいて、2人の命をつないでくれているように思えるのだった。