(142) 住所不明
おかしいなあ、おじいちゃんが暗くなっても、まだ帰らないなんて。伸男は首をひねりながら、ストーブをつけました。時計は6時をまわっています。母さんがパートで勤めているスーパーから戻るのは、7時すぎのはずです。父さんは9時近いし・・。
戸棚や冷蔵庫をあさって、伸男は手当たりしだいに口へ運びました。サッカーの練習日には、飢えたオオカミになります。その間も、おじいちゃんのことが気にかかっていました。
いつもならテレビの前で、声を上げて笑っている頃です。心配のあまり、伸男は家の外へ出て、左右を見渡しました。
電話が鳴りました。急いでもどってみると、女の人の声が聞こえてきました。
「右田病院ですが、藤田友男さんをご存じですか?」
おじいちゃんの名前です。伸男はどきりとしました。
町の金物店の近くで倒れていたおじいちゃんを、病院へ運んでくれた人がいたのです。
「骨折していて、手術はすみましたが、連絡先がわからなくて。財布の中に、藤田伸男さんからのハガキが見つかって、住所がなんとかわかって、それで・・」
あ、あのハガキ! 僕が書いた・・。2年前に中学入学祝いをもらったお礼の、あの古いハガキ! まだ持ってたんだ!
それがなくては、おじいちゃんの住所がわからなかったって? 伸男は考えこみました。
この町へ来て半年が過ぎてるもの、そうだ、もう僕んちをおじいちゃんの家として、名札を作ってポケットに入れてあげなくちゃ・・。