ツナギ4章(5)ツナギの驚き!
翌朝、岩肌は一面の霜におおわれていた。森を吹く風もうなりを上げ、ツナギはぶるっと身震いした。
ウオヤはこの寒さの中を山越えする妻と子らを心配して、がっちり組のシゲと2のカリヤの息子に同行を頼んだ。テリと交代で、荷を持ったり、子らを背負ったりを、2人が引き受けた。
洞から出て来た皆に、オサが告げた。
「朝飯を急いですませて、イカダの準備を昼までには終わらせ、昼飯の後、船を送り出すことにしよう」
八木村へ向かう6人は、日が少し高くなってから、ウオヤに見送られて、洞を出発した。じっちゃは、塩を詰めた袋を、付き添いのテリ、シゲ、カリヤの息子3人の胸の前に下げさせ、八木村のオサに届けることにさせた。
その後、じっちゃが川辺の様子を見たいというので、ツナギはじっちゃを支えながら、山崩れのすそ野の木材を積んである場所へ向かった。
じっちゃがツナギの近道とは、いい道を作ったなとほめてくれた。お前は何かを思いつく天分があるようだ、と言われて、ツナギは胸がほっこりした。
まだ疲れのとれないヤマジたち3人と、炊事係と服作りの女たちが洞に残った以外は、皆作業場に集まっていた。イカダの組み立ては、オサやカリヤたちにまかせて、モッコヤとトナリは、木材掘り出しをいつものように続け、ツナギたちもいつもの作業に戻ることになった。
ツナギは、全体の様子を見届けたじっちゃを、洞へと送り返してきた。坂道はじっちゃにとって、行きも帰りも支えが必要となっていた。
その日の午後、イカダは14本で組み、その中央に木材を10本重ね、後ろにも13本つないだ。水と食料入りのカメをひとつだけ乗せ、オリヤとナメシヤがイカダに乗りこんだ。
船にも食料と水入りのカメを乗せ、小船の後ろにも3本の木材がつながれた。
「これだけあれば、向こうのオサも気分よく迎えてくれるぞ。余計に何か くれるかもな」
ウオヤが船の櫂 (かい) を握りながら、笑って言った。皆に見送られて、一行は風に押されるように海へと向かった。
日ごとに霜と風の冷たさが増すようだった。揺れは今もまだ起こっていた。それでも晴れている限り、モッコヤを先頭に、木材作りは続けられた。
じっちゃは洞に残って、沓作りを続けている。雪になるまでに、なるべくたくさん作っておきたいのだ。
3日後の夕方、八木村へウオヤの母子3人を届けたシゲとカリヤの息子が 戻って来た。ツナギが木切れを抱えて、ちょうど竹林から洞の前へ戻った 時だった。
シゲの後ろに従姉のハナがいた! ツナギは驚いて、思わず木切れをばらまいてしまった。ハナはツナギを見ると、飛びつくように駆け寄り抱きしめた。その背の布袋が、ツナギの手に触れた。
ハナは洞の戸口にじっちゃを見つけて、声を上げた。
「じっちゃ、来ちゃった。いいでしょ」
「いいとも、もちろんだ。タヨとテリも承知したんだな」
じっちゃの声も嬉しそうだ。やっぱりじっちゃは、初めから企んでいたのだ、とツナギは思った。ハナは照れたように笑って頷くと、シゲをいとし そうに見やった。ハナの背の布袋は、着替えなどが入っているらしい。
「山の上り下りは大変だったろう。ハナは偉い!」
じっちゃが言うと、ハナは肩をすくめてまた笑った。脚の悪さなど気にも していないようだ。
シゲは担いできた籾 (もみ)つきの大稲束を、どさりと下ろした。カリヤの 息子も同じほどの大稲束と、その上にのせた布にくるんだ籾を、じっちゃに手渡した。
「あの小さな塩の袋3つで、オサがこんなにくれるとは思わなかった。ワラを寄越すとは、ありがたい!」
ツナギにもわかった。じっちゃはこれでたくさん沓を作るのだ。雪の上を歩くのに助かる。
洞からシゲの母親がとび出して来た。シゲの無事な姿に笑みくずれ、その隣に立っているハナに気づいた。
じっちゃが笑って、押しかけ女房だ、と言ったひと言で、母親は両手を広げてハナを抱き寄せた。ハナもしっかりと母親を抱きしめた。 ツナギは2人の目に涙があふれているのに、また驚いて眺めていた。