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(28) 手遊び
夜中の1時というのに、まだ2階の物音がやみません。啓一がまたラジカセの修理に、熱中しているのです。細かい手作業に、根をつめている様子が浮かんでくると、感無量の思いがして、口がはさめなくなります。自分の手をもてあましていた、幼いころの啓一の姿が、オーバーラップしてくるのです。
啓一は1700グラムで生まれた、未熟児でした。2500グラムに達した時、「1年半たっても歩けない時は、脳性マヒの可能性も・・」との警告つきで、退院を許されました。
実際歩き出したのは、1歳半過ぎでしたし、鈍い動きと不器用さが際立っていて、不安がつのりました。
脳からの指令が、手足の先まで達するようにつなぐこと、それが何より必要に思われました。それで、親子で盛んに手遊びを楽しみました。
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手のひらたたき、部屋の中でのボールころがし (次第にキャッチボールへ)、あやとり、トランプ、お手玉、おはじき、いす取りゲーム、なわとび・・昔ながらの遊びが、子どもの発育に、どんなに大事な物か、啓一の遅くとも確実な進歩を見て、再確認しました。
手先を使えば使うほど、脳は活発に活性化するのでしょうか。いつのまにか、啓一は手仕事が得意となり、大学生の今、スポーツなら何でも楽しめるようになっているのです。