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1章-(7) 若杉先生の驚愕ぶり

文化祭当日、若杉先生が教室の扉を開け、ぐるっと室内を見まわした時の、仰天の顔と言ったら!クラス中が大喜びして、飛び上がったり、笑ったり、叫んだりとなった。先生は教室を一巡し始めた。

先生が驚いたのもムリはなかった。生け花の鉢に8人の出展者の豪華な花が、台の上に並べられ、華やかに教室の一角を彩り、その隣の壁には、油絵が3点、習字は4点縦長に流麗な筆致で飾られている。ピアノと琴とギターの一郭もある。マンガ集を並べた小机もあり、そして、1つの壁を独占した額縁入りのアジサイの花の群れの清冽さ!

「すごいもんだなあ!こりゃあ、学校一の呼び物になるぞ!このへやに大勢が押しかけることになったら、人数制限を考えておいた方がいいぞ。品物に触るのも禁じないとな。今から急いで、大きな張紙を作って、2つのドアの外に張り出しておくんだ!」

「先生、一度に何人くらいがいいんですか?」と松井委員長が訊いた。
「今までの文化祭の例では、20人とか、25人くらいかなあ。君たちの  半分近くが対応するだろう?  それと、長居されても困るから 15分くらいかなあ」

佐々木委員長が、すぱっと決めた。
「じゃあ、20人で15分にして、すぐに張紙作りましょ」
と言うと、すぐに準備にかかった。習字クラブの坂本さんが、文字はいつも書いてくれる。

「人数を数えて区切って案内したり、時間を計ったり、係を増やさないと  忙しくなるね」
と、松井さんは言いながら、ワクワクしてる表情で、早速  係の人を決めてお願いしている。

「今日一日、精一杯がんばろう!」と叫んだのは、横井さんだった。
若杉先生がいいぞ!  と言いながら、にっこりして、拍手もした。

先生は、部屋を一巡して、壁一面を飾っている、香織の額縁モチーフを見、その脇に太い文字で〈笹野香織作〉に気づいて、大きく目を見張って、香織の方をふり向いた。

香織は自分の席で、一心に編み続けていた。何人に頼まれることになるのか、見当もつかないが、今ある24枚では足りないことは明らかなのだ。 今日1日は、勉強の方はそっちのけで、編み物に集中できる。

先生の声に現実に戻されて、香織は目を上げた。
「こんなにたくさん、いつの間にやってたんだ? 夏休みはこれだけで、 費やしてしまったんじゃないのか?  勉強する暇なんて、なかったろう?」
香織はただ首を振った。それから、ようやく声が出せた。
「勉強の方は姉が支えてくれて、ちゃんと予習ができました。でも、1学期の末に、ミス・ニコルに、このモチーフをたくさん作るよう、頼まれてて、文化祭で寄付金集めに使うそうなので、休み中に頑張ったんです」

先生はそうだったのか、と大きく頷いた。驚きのあまり声をなくしたみたいに、しばらく、くり返し頷いていたが、それから感じ入ったようにこう言った。
「何がきっかけになるか、わからないもんだねえ。僕の靴下を編んだ時の、時間のかけ方を思い出すと、こんな見事な物を、短期間でこの数を仕上げた君の気力と粘りと才能に、降参だ! 2学期は、もう自分でやっていけるね。カレンダーなしでも・・」

「いえ、カレンダーはもう作ってあって、自分で印をつけてます」
「それでいいんだ。僕も少し肩の荷がおりたよ。これからを期待してるよ。今回は、いいもの見せてもらって、ありがとうな」

先生は、皆に後をよろしくな、成功を祈る、と言い残して、部屋を出て行った。

皆はもう一度、歓声を上げて、最後の仕上げと確認にに取りかかった。開門の9時に間に合うように、係となってる4人が、それぞれに1年B組へ呼び込むためのチラシを抱えて、門へと走って行った。

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