(100) 群花
大きくなると、花の好みは変わってくるのかな、と朝子は思います。
小さい頃、花の絵といえば、チューリップやヒマワリをよく描きました。ピアノの発表会の時、花束をもらうと、バラやスイトピーの華やかさにうっとりしました。どちらかといえば、大きくて鮮やかな色の、ぱっと目立つ花が好きでした。
それがどういうわけか、ことしは、小さな花の群れ咲く美しさに、見とれてしまいます。ひとつひとつは地味だけれど、群れになると、白レースのようなカスミソウ、くっきりと青いイヌフグリ、そして何よりも見直したのは、サクラでした。
塾の帰りに、月明かりのサクラ並木の下で、朝子は息をのみました。何層も重なり合った、淡色の花びらの群れが、頭上をおおっていました。吸いこまれそうです。淡い香りに包まれて、花狂いしそう。こんなに、こんなにきれいだったんだ!
思わず両手を差しのべて、くるくるとまわっていると、自転車の明かりが3台近づいてきました。
「あれ!」と、そのひとりが声を上げました。朝子だと気づいてくれたようです。
「夜桜見物かあ、いいなあ」
その声は、あこがれのSくん! 聡くん!
声だけ残して、あっという間に、自転車三台は去ってしまったけれど、彼の視線を朝子はこのごろ、敏感に意識していたのです。
ああ、サクラの下で、もう一度、朝子はくるくると踊り回りました。
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